第10章 対面
「……ええ。貴女は?」
『さっきの男に聞いてないの?』
「聞いてませんよ」
『怯えた顔したから、てっきり知ってるのかと思った』
くすくすと笑う彼女。わざわざそう言うのは疑われているからだろう。
唯は一言も発しない。表情はいくらかマシになったがそれでも強ばっている。
『にしても仲良いのね』
探りを入れにきているのだろう。
「まあ、ここに入った時期がほぼ同じなので。任務が被ることもありますから」
これは嘘ではない。怪しまれないように入るタイミングをずらした。
「それで何か用ですか?」
『面白い人が入ったって聞いたから会いに来たの』
「面白い……ですか?」
『私立探偵なんて、所謂正義側の人間がどうしてこんな所に来たのかって』
組織に入る段階で一度身分は明かしている。もちろん偽りのものだが。素性を調べるくらい造作もないのだろうが……警戒心が強くなる。
『ふふっ……そんなに怖い顔しないで』
彼女は近寄って見上げてくる。無意識に表情を強ばらせていたのだろう。
『一つだけ言っておくけど』
「……なんでしょう」
『簡単に命が消える世界に入ってしまったんだから、仲良くなりすぎると後悔するわよ……それじゃ続きよろしくね』
そう言って去っていった……あれはどういうつもりで言ったのだろう。
「透、続きやろう」
1人居なくなったせいで予定より少し遅れたが、なんとか後始末を終え帰路に着く。
「……彼女のことどう思いますか?」
「めちゃくちゃ美人だったな」
「は?」
「あ、いや、怒んなって!お前が怖い顔してるからほぐしてやろうと思って……」
「はあ……全く」
「でも、さっきの男の反応の感じだとあいつも幹部だろ?」
「おそらくそうでしょう……しかし、どうして……」
「少しずつ調べればいいだろ?」
「そうですね……焦りは最大のトラップですから」
いつか、同期が言っていた言葉を思い出す。あいつらも元気にやっているだろうか……しばらく会うことなどできないが。
―後悔するわよ
後悔などするわけない。何より……
「……死なせるわけない」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ、独り言です」
「そうか?あ、飯何にしようか?」
「そうですね……」
警戒を怠ることはできない。それでも、たわいもない会話をすることくらい許されるだろうか。