第10章 対面
亜夜side―
廃れた港にそのバーはある。しかし、その場所に一般人はいない。裏社会では割と知れた場所で、簡単な取引はここで行われることもあるが。マスターは口が固く、ただオーダーされた酒を提供するだけ。
私はカウンターへ掛けた。隣にはベルモット。
「それで……どうだった?」
『特に何もなかったよ』
4人に会いその後、それぞれ尾行を何日かしたがそれらしい人物との接触はなかった。それでも……。
「貴女の感覚も反応しなかった?」
『……全員嫌な感じ。初対面で警戒してたのもあるかもしれないけど』
そうは言っても、なんとなくの感覚なのであまり期待しないで欲しい。
「……わかったわ。ラムにはそう伝えておくから」
『ごめんね、パッとしない報告で』
「気にしなくていいわ。警戒するに越したことはないし」
せっかく任せてもらったのに、何ともいえない気分。きっと発信機くらい用意するだろうけど。
ベルモットを見るとグラスを傾けているところだった。美人は何しても絵になるな……。
『それ、なんてお酒?』
「あら、お酒飲めたかしら?」
『……この間20歳になったわよ』
「冗談よ。私が貴女の誕生日忘れるわけないじゃない」
ベルモットは箱を取り出した。
「誕生日おめでとう」
『……ありがとう』
にやけてしまうのをおさえきれない。この組織に来て初めて誕生日を祝われた日、号泣したことを思い出した。
『見てもいい?』
「もちろん」
箱を開けるとそこには香水と口紅。
『この香水……』
「貴女、私の香水好きだって言ってくれるから。種類は違うけど、貴女に合うと思うわ。口紅もどの貴女でも似合うはずだから」
こういったセンスは流石としか言いようがない。今までに貰ったものも似合わなかったことがないから。
『大事に使うね』
スっと私の前に出されるグラス。
「サービスです」
マスターがそう言った。
「プリンセス・メアリーです。カクテル言葉は"祝福"」
「今の貴女にピッタリね」
『ありがとうございます』
口をつけると甘い味が広がる。
『……美味しい』
「口に合ったようで何よりです」
マスターは軽く頭を下げ、奥へ引いて行った。
「最近、ジンに会った?」
『全然……会いたいけど』
……その思いが叶う日はいつか来るのだろうか。