第10章 対面
安室&緑川side―
「うっ……マジかよ」
「……大丈夫そうですか」
組織に潜入して早々に受けた任務は情報収集だった。そのため、予定よりスムーズにことが進むかと思ったが、生憎重要そうな任務はそれっきり。
その後は組織の取引の後始末をしている。壁にめり込んだ弾丸の処理や落ちている拳銃やナイフの回収。これまでに来た現場はそこまで悲惨ではなかったが……。
「見るのは初めてじゃないけど……この量は……」
唯の反応も当たり前だろう。
今日の現場は地獄絵図と呼ぶにふさわしい……死体があちこちに転がっている。それの回収と血痕をできる限り消すこと。
それなら殺すなよ……そう思って手を動かすが、吐き気は少なからず込み上げてくる。
「んだよ、お前らこういうとこ初めてか?」
組織の末端の男が言う。
「ええ……まだ入って間もないので」
「早いとこ慣れねえとこの先もっとキツイぞ」
「そうですね……」
「初めてなら仕方ねえけど……こんなとこ幹部のヤツらに見られたら……」
「幹部……ですか?」
「ああ……ここだけの話だぞ」
男は声を潜める。
「幹部は酒の名前で呼びあってる……死にたくなきゃヤツらには逆らっちゃいけねえ」
「……酒の名前ですか」
「会ったことねえか?」
「いえ、心当たりはあります」
聞いていた情報通りだ……今のところわかっているのはジン、ベルモット、ウォッカの3人だけだが。
「実際何人いるか知らねえが……気をつけろよ」
「ええ、お気遣い……」
言いかけたところでものすごい殺気を感じる。そこで話していた男の背後に立つ女に気づいた。
『随分おしゃべりなのね』
「あ、あ……なんで……」
男が震え出す。反応を見る限りこの女も幹部なのか……?しかし、いつからそこにいたのか、全く気配を感じなかった。
『貴方、帰りなさい』
「……え、いや、まだ」
『何……それとも』
男に向けて女は拳銃を突きつける。
『ここで死にたい?』
「ひっ……やっ、しっ、失礼しますっ」
男は逃げるように去っていった。
そこでやっと見えた女の顔に思わず目を見開いた。隣に立つ唯の顔も引きつっている。例の爆発事件に関わったとされる写真の女だ。
目が合う。どうにか表情を取り繕う。
『安室透と緑川唯ね』
そう言って微笑む女はゾッとするほど美しかった。