第10章 対面
言われた場所に着いた。周囲を見回すが講師の姿はない。まだ来ていないのか……。
「水無さん、待たせたかな」
講師の声に振り向くと、そこにいたのは……。
『初めまして、水無怜奈』
あの写真の子……爆発事件に関わったとされる被疑者。しらを切る方がいいか。
「……ええ、あなたは?」
『なんだ、覚えてないの?』
「生憎だけど……」
『さっきぶつかったのに』
その言葉にハッとする。まさか私を狙ってわざと……組織に疑われているのだろうか。ならばその時に資料も……?それじゃさっき講師からきた電話も……?
「あれ、あなただったのね。ごめんなさい、よそ見してて」
『大丈夫……とこれ、貴女のでしょ?』
そう言って差し出される収録内容の資料。
「……ええ。ありがとう」
早く立ち去らなければ。これ以上関わると何をされるかわからない。
紙を受け取ろうとするが、手を離してくれない。その子を見るとくすくすと笑う。
『……警戒してる?』
「そうね」
『ふふっ……貴女のこと気になって』
「何かあったかしら」
そう言うと指で紙をトントンと突かれる。名前の書いてある部分を。
『水無怜奈……面白い名前ね』
背筋がスっと冷たくなる。短期間だからと安直に決めた自分を恨んだ。でも、偽装は問題ないはず……私がボロを出さなければ。
「……そうかしら」
『ええ……語呂合わせで"Miss007"なんて』
「それ偶然らしいの……両親に聞いたらたまたまだって」
『へえ……』
くすくすと笑いながら目を合わせられる。
「さっきの電話もあなた?」
『そう。あの人に電話借りたの』
「……まさか何かしたの?」
『少し寝てもらってるだけ』
平然と答える様子は普通じゃない。
『……それじゃその放送楽しみにしてるわ』
そう言って去っていった。数分会っただけで彼女が危険人物であることは十分理解できた。会ったことも父に伝えるべきだろう。父なら彼女のことを知っているかもしれない。
あの後どうにか部屋に帰った。つけられている気配はなかったが何度も振り返りなから。明日、父に連絡できるまでの時間がとてつもなく長い気がする。
気持ちがどうも焦ってしまう。元々不安があったけど、彼女に会って更に大きくなった。
「……早く終わらせないと」
こんな所に居続けるのはごめんだ。