第101章 隣に立つのは
そう言うとジンは自身の左手をちらりと見た。その表情に泣きそうになって唇を噛んだ。目を強く瞑ってゆっくり息を吐く。
『きっと素敵な人、見つかったんだよね。その人の事、大事にしてあげて。だから、私達の事は……』
そこまで言ってついに涙が零れた。泣き顔なんて見せたくないから俯いて静かに涙を流す。ジンのため息が聞こえてきて、絶望に近い感情に支配されそうになる。
「……何を勘違いしてるか知らねぇが」
『勘違い……?』
さらり、と耳に髪がかけられた。顔を上げるとジンの手が頬を流れる涙を拭っていく。ジンはなんというか……真剣な表情をしている。
「……お前を探してた、と言ったら信じるか?」
その言葉に目を見開いた。ジンは自身のコートのポケットに手を入れる。そして、取り出されたのは。
『な、んでそれっ……!』
「全部終わらせたら返すつもりだった。こんなに遅くなるなんて思いもしなかったがな」
あの日、私が置いてきたネックレスと指輪。あの爆発で吹き飛んでしまったと諦めていたのに。それは今、ジンの手の中にある。
「ずっと願ってた。いつか、必ずお前を見つけられるように……なんて柄にもねぇ事してた」
『っ……なにそれ……』
「先に見つけたのがあの女だったのは癪だが……それでも、どうしようもないくらい、嬉しかった」
あの時、ジンが現れたのは偶然ではなかったのか。きっと、ベルモットがジンに伝えたんだろう。
チャリ、とネックレスのチェーンが擦れる音がした。
「これと一緒に作ったのが俺の付けてるやつだ……他の女なんているわけねぇだろ」
ネックレスのチェーンから指輪が外される。そして、ジンの手が私の左手を取る。そこから起こるであろう事がわかって咄嗟に手を引いた。でも、ジンが強く掴んでいるせいで離してもらえない。ジンの目がスっと細められたのがわかったが、それでも。
『私の、私のせいで組織はなくなったんだよ?!』
「……」
『たくさん嘘ついて、情報だって隠して……裏切ったのに……!』
「……遅かれ早かれ組織は壊滅した。それがあのタイミングだっただけだ」
『でも……!』
「俺だってお前に全て押し付けて逃げた」
『っ……』
「それでも、許してくれるなら」
照明の光で指輪がキラリと輝いた。
「俺のそばにいてほしい。他の誰でもない、お前に」