第101章 隣に立つのは
『本当に、私でいいの……?』
「お前じゃなきゃ駄目だ」
嬉しさで流れる涙は、先程とは違う温度を持つ。右手で涙を拭い、震える口角を上げて笑った。
『ずっと……そばにいてください』
震える声で伝える。ジンの表情がフッと緩んだ。左手の薬指に指輪が嵌められた。二度と手に入らないと思っていた僅かな重み。嬉しくて幸せでたまらない。気持ちを抑えきれなくて、ジンの胸に飛び込んだ。しがみついて、声を上げて泣いた。ジンの手が私の頭をそっと撫でてくれる。
どれだけの間そうしていただろうか。体を離してジンと見つめ合う。どちらからともなく顔が近づいて、そっと唇が重なった。何度もキスを繰り返して、もう一度見つめ合う。ジンの手が私の右頬に伸ばされた。
「……悪かった」
『ううん、大丈夫』
「だが、痕残っちまっただろ」
『違うよ。残したの』
ジンの目がスっと細められた。ジンの手に自身の手を重ねる。
『傷痕はほとんど消してもらったの。逃げる時にできた火傷とか撃たれた痕とか。肩とお腹にあった傷もない。でも、これは消したくなくて。結構気に入ってるんだよ。ジンが残してくれたものだから』
「……そうか」
ジンの肩に腕を回す。
『ありがとう、ジン。私達の事見つけてくれて』
「……ああ」
微笑みあってまた唇を重ねた。いつの間にか腰に回されていた手が私を引き寄せる。そして、キスが深いものに変わろうとした時。
「ママぁ……」
光希の声が聞こえてそちらへ顔を向けてしまった。ハッとしてジンの方に向き直ると苦笑しながらも手を離してくれる。
『ごめんね……この先もこういう事あると思う』
「謝る必要ねぇ。何に変えても守らなきゃならねぇだろ」
躊躇う事もなく言ってのけたジンをぽかんと見つめてしまう。
「……できねぇ事も多いだろうがな」
『私もまだわからない事多いから。一緒にやっていこう?その……家族、なんだから……』
「ああ……そうだな」
『連れてくるから待ってて』
そう言って光希を起こしに行く。抱き上げてソファへ戻ると光希は目をぱちぱちと瞬かせた。
「パパ?」
『そう、パパ。これからパパも一緒に暮らしていいかな?』
「ん!パパ!」
やっと全員で笑い合えた。
隣にはジンがいて、光希がいて。ここが、私達家族のスタート地点だ。