第10章 対面
水無side―
「……なんで私が」
ぽつりと漏れた呟き。
例の組織に潜入したはいいものの、そうそうに言い渡された任務は《アナウンサーになれ》だった。あれよあれよという間にことが進み、今はアナウンサーになる為の研修中。あなた優秀ね、なんて講師には言われたけど全然嬉しくないし、今度収録に出ることになってしまった。そんなに長居する予定でもないのに、かなり面倒なことを引き受けたな……。
瑛介には旅行と言って出てきたのに、アナウンサーとしてテレビなんかに出たら何を言われるか……。潜入する上で万が一のことも考え、連絡先は1度消した。
頃合いを見て事故死に見せかけて姿を消す予定だからそれまでは。
父とは……組織に潜入してからしばらく経つが、まだ会えていない。電話は何度かしているが、急を要する場合以外は連絡するな、と釘を刺されている。メールなんて、もしハッキングされたら全て情報が筒抜けになるから使えないし。
あの日、父からの連絡を受けてつなぎ役となる人物を探した。その中で見つけたバーニィという男。彼とは少し時期をずらして組織に潜入した。
「……今大丈夫?」
父と連絡をとる時間は、急を要する場合のみ17:30に。そう指示された。
「……ああ、水無か。何の用だ」
「つなぎ役を決めたから……会わせる日を」
「そうか……っ、すまない、また連絡する」
切れた電話にため息をつく。危険な立場なの理解しているつもりだが、毎回虚しい気持ちになる。名前で呼んでもらえないことも、1分にも満たない時間しか話せないことも……少しの間、辛抱しなければ。
偽名で借りた部屋に帰り、今日の講義でもらった資料を並べる。
「……あれ、ない」
収録の詳細が書かれた紙が見当たらない。どこかで落としたかな……。
「あ、さっきの……」
テレビ局を出ようとした時にぶつかった人。私もよそ見していたから悪かったのだけど、手に持っていた資料を落としてしまったのだ。若い女性だった気がするが、顔はちゃんと見なかった。その時か……一応名前は書いたから見つかるか……?
面倒だが取りに行くか……内容も内容だし。そう思い腰をあげると電話がなった。
「……はい」
「あ、水無さん?」
講師の声だ。紙を拾ってくれたらしい。地下駐車場で待ってるわという講師に、これから行きますと伝え部屋を出た。
