第98章 これで、終わり
『……誰?』
「フッ……まだ生きてたか」
『ジン?』
聞こえてきた声に足を止めた。もう声すらも聞く事はないと思っていたから、こんな状況でも嬉しくてたまらない。
『大丈夫?ちゃんと脱出できた?捕まってない?怪我してない?』
「俺がそんなヘマすると思うか」
『そうだよね……よかったぁ……』
安心して力が抜けそうになる。壁にもたれかかってどうにか崩れ落ちるのを耐えた。こんなところで立ち止まってる場合じゃない。ジンと合流して、私の事始末してもらわないと。
『ジン、今どこ?すぐ行くから……そしたら殺してくれるよね?』
「……それはお前にとって罰にならねぇだろ?」
『え……?』
「あの約束は無しだ。俺はお前を殺さねぇ。お前はもう俺のものじゃねぇからな」
『っ……』
「生きるのも死ぬのも勝手にしろ」
涙が一筋、頬をつたった。
絶対的な拒絶。胸の奥がグチグチと痛んで、でも納得している自分もいる。全て、私が悪いから。こうなる原因を作ったのは私だから。
『そ、っか……』
これが最後の会話になるんだろう。だったら、伝えておかなきゃ。信じてもらえないかもしれないけど、それでもこれは私の本心だから。
『ねぇ、ジン』
「……なんだ」
『私、ジンに会えてよかったよ。楽しかったし、幸せだった』
「……」
『本当……本当に、大好きだよ……っ』
「お前……」
『今までありがとう……さよなら……』
そう言い切って通話を終わらせる。スマホはそのまま地面に落として拳銃で撃ち抜いた。耳に付けていた通信機も外して足で粉々に砕く。
1歩踏み出すと、思いの外すんなりと脚は動いた。そのままふらふらと宛もなく歩いていく。
生きようか、死んでしまおうか。私のものでなかった命の扱いをどうしようか考える。死んでしまったら楽なんだろうと思うけど、生きる理由は無くなったのに死が怖くも感じる。どちらにしても捕まるのはごめんだ。
窓の外は暗くなり始めている。組織の工作員も警察関係者も消耗仕切っているはずだ。なら最後は、派手に終わらせるのもいいだろう。
そう思っていたのに、どうしてこうも邪魔が入るのか。
「見つけたぞ、マティーニ」
『……命知らずね。それとも独断?』
「1人残らず捕まえるって決めてるからな」
見慣れた少年がこちらに向けて拳銃を構えた。