第98章 これで、終わり
コツコツと地面を踵で叩く。ジンがここから脱出するまでにどのくらいかかるだろうか。普通に行けば10分、途中で足止めだったり回り道をしたとして……20分で足りるかな。
躊躇う必要がないとはいえ、この2人を相手にするのはかなりリスクが高い。殺そうとはしないだろうけど、手足を折ろうとしてくる可能性がある。痛覚がなくても使い物にならないと困る。
「無駄な抵抗はよせ」
『……捕まるくらいなら死んだ方がマシよ』
そう言って右手の拳銃の引き金を引いた。狙いは赤井の左肩。が、少し外に外れてしまった。痛みがないとしても頬に受けた1発のせいで若干視界がブレているみたいだ。
その1発がゴングとなり、2人が一気に詰め寄ってきた。立て続けに引き金を引いて何発かは2人の体を掠めていく。それでも勢いは止まらない。振り下ろされた降谷の腕を自分の腕で受け止める。重い……腕がミシミシいってる気がする。後ろに飛んで距離を取り、受け止めた方の腕を動かしてみる。折れてはいないようだ。
しかし、息はもう上がってきている。ほんの数分動いただけなのに。この様子じゃ引き際を間違えたら逃げられない。
それだけじゃない。何度拳銃を構えて引き金を引いても標準がブレる。狙いが外れると安心してる自分もいる。たぶん、今まで以上に殺す事が少し怖くなってる。そんな甘え事言ってる場合じゃないのに。
油断しているとその隙をついて2人の拳や脚が飛んでくる。ほとんど避けれなくてこちらも腕や脚でガードする。それを何度も繰り返していると急に体が動かなくなった。気づいた時には吹き飛ばされて地面に倒れていた。
「マティーニ、もう……」
『うるさい』
痛くないのに体が動かない。でも、このままじゃ捕まる。どれだけ時間を稼げたかはわからないが引き際だろう。
どうにか立ち上がるが体はふらついている。コツコツと地面を踵で叩く。脚は動きそうだ。
「何を……」
『貴方達には捕まらない』
ポケットから取り出した閃光弾を地面に叩きつけた。同時にジンが出ていった方の出口へ駆け出す。足音はまだ来ない。結構強力な閃光弾だ。失明とまではいかないが、それでもしばらくは目が眩んで動けないだろう。
『ん……?』
スマホが震えた。こんな時に、と思いつつも取り出して画面を見る。非通知の文字に警戒しながらも通話ボタンを押した。