第98章 これで、終わり
どうしようもないくらいの恐怖。死がすぐそこに迫っている。そういうのは初めてではないけど、今まではどこかに逃げ道があった。でも今はそれもない。思わず零れた笑いは諦めからのものだった。
『……何も話せないや』
「それは、知ってた事を認めるって意味だな?」
『……』
尋問のような時間が流れるが、撃たれた弾は頬に受けた1発だけ。本来ならもうとっくに殺している頃だろうに。
ただ静かにジンを見る。無表情ではない。敵を始末する時のように笑っているわけでもない。どことなく苦しそうで、迷っているようにも見える。
「どうして裏切った」
『……あえて理由を付けるなら、明美を殺された事への仕返しかしら』
「あんな女1人のためにここまでしたと?」
『……意味はないのかもしれないわ。だけど、戻れなくなっちゃったの。小さな嘘が積み重なりすぎて』
「……」
『私から話せる事はないわ』
拳銃をホルスターにしまい、激痛で引き攣る頬を動かして笑みを浮かべた。
『裏切りには制裁を。私の事殺してくれるよね、ジン?』
「……もう1つ答えろ」
『何?』
「本当に全部、嘘か」
『それは……』
ジンの問いに答えようとした時、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。迷わず振り返って拳銃を抜く。
『行って』
「……あ?」
『時間稼ぎくらいできる。上手く逃げて。捕まったり、死んだりしないで』
「……」
『私は大丈夫だから。約束、ちゃんと守るからさ』
「……」
『元気でね』
「チッ……」
舌打ちと共に離れていく足音。ちらりと後ろを見てジンの姿がない事を確認して細く息を吐いた。そして、ポケットの中を探り隠し持っていた注射器を取り出し、腕に薬を打った。徐々に頬の痛みが消えていく。
注射器を投げ捨てたところで目の前に現れたのは、予想通り赤井と降谷で。2つの銃口が私に向けられた。
「マティーニ……」
「ジンはどうした」
『さあ、知らないわ』
私も二丁の拳銃を抜いて2人に向けて構えた。
「抵抗するな。不用意に傷つけたくない」
『ずいぶん甘い事言うじゃない』
「お前1人で俺達を相手にできると?」
『やってみないとわからないわ。貴方達相手なら久しぶりに本気でやっても良さそうね』
先程打った薬は痛覚をなくすもの。だから、躊躇う必要もない。