第10章 対面
バッと後ろを振り返る。声からして若い女性だろうか。月明かりも無いせいで、顔がよく見えない。
『貴方が諸星大ね』
「……何の用だ」
『ふふっ……気になったからついてきたの』
「組織のヤツか?」
『あら、私のこと知ってるのかと思ってたけど』
今まで会った組織のヤツらを思い出すが心当たりがない。俺がNOCだと疑っての発言だろうか……ボロは出せないな。
「悪いが記憶にないな」
『そう』
くすくすと笑う女。
『あの子ってこういう男が好みなのね……意外だわ』
明美との関係を知っているのだろうか。先程からの視線もこの女ならそう思うだろうが。
「……何故俺をつけた」
『だから、気になったのよ』
「何がだ」
『拳銃を隠し持つのって今どきの流行り?』
背筋に冷たいものが走った。多少のことでは動揺しない自信があった。それなのに……この女は危険だと脳が言っている。
『仕込んである位置からして左利き?左利きって天才肌って言うわよね……直感で動くこともあるらしいけど』
……この女が何者なのか確認するのは今でなくていい。ここは早く引くべきか……。
雲が切れ、月明かりが辺りを照らす。
その瞬間、女が間合いを詰めてきた。同時に繰り出される拳。咄嗟に受け流すが続く蹴り。受けるだけでは駄目か……反撃に出る。しかしそれも躱される。手を掴んだがそれも呆気なく外される。
このままではまずい……そう思った時間合いが開かれた。
「はあ……はあ……」
息が切れる。女は髪こそ乱れているが呼吸は落ち着いている。
くすくすと笑いながら髪をかきあげる女。月明かりに照らされて見えたその顔は……あの写真の……爆発事件の被疑者。
『へえ……截拳道ね。嫌いじゃないわ』
そう言って笑う女を……美しいと思った。そこだけ絵画の1部のようで。
『貴方、面白い』
そのまま歩み寄ってくる。
『また近いうちに会えると思うけど……あの子のこと大事にしてね』
「わかっている……」
そう絞り出すので精一杯だった。
くすくすと笑う声。耳元に顔が寄せられる。
『それじゃあ……バイバイ、大君』
その声は明美の声で。ハッとして振り返るとそこに姿はなかった。
そこからどう歩いたか……待たせていた伝達役にすれ違いざましばらく会えないと告げる。
……油断できないな、あの女。