第97章 忘れられないように※
その後、何度もイかされて……意識が飛ばなかっただけ良いのかもしれないが。脱力感に包まれた身体はベッドに沈む。髪を梳くジンの指が心地よい。
『……』
「なんだ、優しくしてやったろ」
『それはまあ……そうかもしれないけど』
髪にキスされてぶわっと顔が熱くなる。それを誤魔化すようにジンの胸元に顔を埋めて匂いを吸い込んだ。目の前の肌に触れて筋肉の筋をなぞってみたり、キスしてみたり。一つ一つを記憶に刻みつけていく。
「……まだ足りねぇのか」
『ち、違うっ!』
「煽ってるようにしか思えねぇが?」
『いや、その……』
「はっきり言え」
『……忘れたくないなって思って』
「どういう意味だ」
ジンの顔を見ると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。こんな事を言えば当たり前だろうけど。
『大きな作戦の前で怖くなってるのかも。もしかしたら、これが最後かもって……』
「……」
『だから、もしそうなったとしても覚えてられるように……忘れられないようにしたくて』
「ふざけるな」
『っ……』
明らかに苛立ったような声に息を止めた。まずい事を言ったかも……でも、有り得ない未来じゃないから。
『で、でも……』
「お前は俺のものなんだろ?」
『そうだけど……』
「勝手に俺から離れる事は許さねぇ。お前が俺から離れる時は、俺が不要だと判断した時か、お前が死ぬ時だけだ」
『そっか……そうだよね』
そう答えてもう一度ジンの胸元に顔を埋める。
作戦の、遅くても前日までにFBIや公安は動くはずだ。ヤツらと組織の全面戦争になれば命を落とす可能性もある。それがわかってるからこそ忘れたくないという言葉なんだけど。
だるい身体を起こしてジンの顔を覗き込む。
『あの時、来てくれたのがジンでよかった』
「……」
『あの日、私の全てが変わったの』
ジンの意思ではなかったとしても、あの場にいてくれなかったらたぶん私はあのまま死んでた。死ななかったとしてもずっと囚われたままだったかもしれない。そこからすくい上げてくれたのは、生きる意味になってくれたのはジンだから。
それを裏切っている、その制裁はきっと命でも償えないだろうけど、許されている限りそばにいよう。私の全てはジンのものだから。
これが最後かも。そう思って口を開いた。
『ジン、大好きだよ』
そう言って唇を重ねた。