第10章 対面
諸星side―
……ここまでうまくいった。
組織の女が運転する車にわざと当たり接近。どうやら好意を持ってくれたようで恋人関係になった。もちろん上辺だけの。
彼女を仲介として組織へ潜入。だが、まだ目立つ行動は控えるべきか……。組織に入って早々に目立つとかえって怪しまれる。潜入するまでは急いだが、ここからは少しずつ……幹部のヤツらの目に止まればいい。
「大君!」
「すまない。待たせたか」
「ううん。大丈夫!」
彼女……宮野明美は嬉しそうに笑う。潜入を開始してからはそれ以前より会うことが減った。俺自身には不都合はないのだが仕方ない。利用したとはいえ、明美がいなければここまでスムーズにことは進まなかっただろう。
「……ねえ大君、聞いてるの?」
「悪い、考え事だ」
少し不満そうな顔をする明美。でもすぐにその顔には笑顔が戻る。
「そっか……あ、あそこ行こ!」
そう言って手を引かれる。どうして明美のような人間が組織にいるのだろう。裏の世界には似合わない。以前、その話をしかけたことがある。その時の明美の顔は暗かった。
―両親も組織の一員だったの。それに、妹は優秀だからって……。
その妹とコンタクトが取れればいいのだが。面識があるだけで更に深くに潜り込めるだろう。そうすれば……ジンという男に近づける。ヤツに近づけばいずれはボスにも……。
ふと視線を感じた……気のせいか?
万が一の為に拳銃は持っている。傍目からはわからないようにしているが。まさか組織の……。
視線はその一瞬だけで、その後は何もなかった。
「今日はありがとう。すごく楽しかった」
「ああ。俺もだ」
中身のない言葉にすら嬉しそうに笑う明美。バイバイと手を振って去っていった。
……やはり、見られている。
明美と別れて再度感じる視線。先程と同じ人物だろうか。歩き出すとついてくる気配。何度か振り返ったが姿は見えない。ならば暴いてやるまでだ。
あえて人気がなく、倉庫が立ち並ぶ方へ足を進める。夜になり月は雲に隠れているから辺りは暗い。歩く少しペースをあげると若干距離が開いた。こんなので巻ける尾行なら大したヤツではないか……。気配が消え立ち止まる。
今日は伝達役と会う予定なんだがな……無駄な時間だったか。踵を返した。その時、背後に感じた殺気。
『酷いじゃない、気づいてるのに逃げるなんて』