第93章 根拠のない確信
「どうしてそこまでして悪役になろうとするんですか」
『……犯罪者に悪役も何もないでしょ』
深く関わりすぎてしまった事で生まれてしまった思いはなかなか消えてくれない。消そう消そうと思っている時点で無理なのかもしれない。理由はあるがとはいえ、何も言わずに全て断ち切ってしまった事が一番の心残りだ。
「そんな顔するなら会いに行けばいいじゃないですか。彼女達の顔を見るだけでも違うかもしれませんよ」
『……変装道具は処分したって言ったでしょ』
「顔を見に行くだけなら変装が違ったって問題ないでしょう」
『別に、貴方には関係ないでしょ』
そんなふうに言ったのに。たまたま時間ができて、日用品もいくつか無くなりそうで。新しく買った変装用のメイク道具の使い勝手も確かめたくて簡単な、それでも素顔はハッキリわからないくらいのメイクを施した。この時点でポアロに行こうという考えは少しだけあった。
買い物を終えて、歩き慣れた道を進んでいく。だんだんポアロが近づいてくると歩調が遅くなった。やっぱりやめようか、とポアロの前を通り過ぎようとした。今までの癖で店内をチラリと覗くと偶然こちらを見たであろう梓さんとパチリと視線が合わさった。ニコリと微笑みを返されて軽く頭を下げる。
本当に、今日で終わりにしないと。そう決心しながらポアロの扉を開けた。
カウンターに通されて見慣れたメニューを開く。少し悩んでアイスコーヒーだけを注文した。しばらくして目の前に置かれたアイスコーヒーを一口飲む。変わらない味にほっとしながらも、もうここでこのアイスコーヒーを味わう事はない。
視線を感じて顔を上げると、また梓さんとパチリと目が合う。
『あの、何か?』
「あっ、すみません!その……前まで良く来てくれてたお客様に似ている気がして……」
『そうなんですね』
そんな事を思われているだなんて考えもしなかったから少し驚いた。ここに来ていた時の変装もマスクではなくメイクをしていただけだから似ていると言われてもおかしくはないのだけど。それでも……彼女はお客様の事をよく見ているのだろう。
入口のベルが鳴り、反射でそちらに顔を向けた。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは」
「あれ、今日安室さんいないんですか?」
そう言いながら入ってきたのは蘭ちゃんと園子ちゃんだった。