第92章 熱い吐息※
何か言い返そうかと思ったが、以前バーボンに惚れたらしい女にいろいろされた事を思い出して口を閉じた。
苛立っているのか、私の腕を掴んでいるジンの手に徐々に力が入っていくのがわかる。でも、振り払わないという事はこの女性もそれなりの組織の令嬢なのだろうか。
「誰か知らないけど、私今からこの方とイイコトするの。邪魔しないでもらえる?」
女性の言葉にベルモットは呆れたように肩を竦め、バーボンは今にも吹き出しそう。私もこんな場所じゃなかったら殴りかかっていた気がする。
それをどうにか堪えるために、女性から目を離さないようにしつつ考えた。ジンだってそれなりに薬の耐性があるはずだ。睡眠薬や媚薬の類は流通しているものはほとんど効かないだろうし、似たような成分であれば全くとは言わないがそこま効果が出る事はないはず。だとしたら最近出回り始めたものだろうか。
女性はこちらの様子に全く気づかないみたいだ。それどころか、周囲の視線を集めている事にも気づいていない。なかなか靡かないジンに若干苛立っているようにも見える。
ジンが盛られたのはおそらく媚薬の類。しかも、かなり強いもの。策があるにはあるのだが、止まらなかったら……バーボンに頼るのは癪だがそういう状況になったらいろいろ言ってられない。
バーボンに視線を向けて持っていたグラスを差し出す。それをバーボンが受け取ったのを確認してジンの前に回る。
「貴女しつこいわよ。彼は私と……」
女性が言い切るより先に、少し背伸びをしてジンの唇に私の唇を重ねた。ジンはビクッと反応したが、すぐに舌を差し込んできた。そして、腕を掴んでいた手は腰に回されて更に体が近づく。
「なによ!」
女性の声でジンの顔が離れていく。顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうな女性。
「絶対私のものにするんだから!」
そう言って去っていった。
どこの令嬢もあんな感じなのか……バーボンの時のように拘束されて好き勝手やられるのは嫌だ。
『悪いんだけど、さっきの女とオハナシしといてもらえる?前みたいなのはごめんだわ』
「そうね……面白いもの見せてもらったし。あとの事はやっておくわ」
『ありがと、じゃあいくね』
言い終わるとジンが私の腰を抱いたまま歩き出して躓きそうになった。服越しに感じる体温は普段に比べてかなり熱くて……正直、この後の事が不安でしかない。