第91章 タイトルの意味
「……揃いも揃っておもしろくない反応ね」
「彼女はそういう事はしませんから」
確かに。ポアロに行った時、バーボンが少し近づいただけで炎上と言って慌てて距離を取る様子を何度か見ている。そんな彼女が自ら近づいていく事はしないし、本人達もそういう関係ではないと何度も言っているようだけど、それでもこそこそと陰口を言っている客を見た事がある。
『……本人に迷惑がかからないように気をつけてね』
「わかってるわよ」
「貴女も一緒に行きませんか?」
『……遠慮しておくわ。この顔知ってる人がいたらまずいし』
バーボンを軽く睨みながら言うと、こちらの意志を察してくれたらしい。
「そうですか。では、お気をつけて」
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アジトに帰ってからしばらく。結局、波土禄道の曲のタイトルASACAは組織が警戒していたものではないという事がわかった。タイトルの意味を聞くだけだったはずなのにここまで時間がかかったのは、どうやら事件があったらしいから。ネットニュースの速報には波土禄道死亡の文字が流れていた。
『ねえ、そろそろ教えてよ。ASACAってなんなの?』
「……」
『人の名前?にしたって、どんな人かわかってないと対応のしようがないでしょ。顔はわからなくても、性別とか……』
ジンはタバコの煙をゆっくり吐き出した。
「お前でも相手にできるかわからねぇぞ」
『……それってどういう意味?強いの?』
「ああ……警戒心も腕っぷしもな」
『へぇ……それじゃあ、17年前にラムが失敗した仕事って何?羽田浩司って……』
「それは話せねぇ」
『……そっか』
「お前が弱いとは思っちゃいねぇが、後先考えず飛び込んでいくのはやめろ。何年か前もそれで怪我して帰ってきたろ」
『まあ、あれは……怪我人助けたら思ったより元気だったってだけだし』
「とにかく気を緩めるな」
『わかったよ』
そう言ってジンは部屋を出ていった。
話せねぇとは言われたけど、調べるなとは言われてないもんね。パソコンを起動して17年前の事件を調べようとしたのだが。思った以上に情報がない。
ひとつ手がかりになりそうなのは、羽田浩司が持っていたという将棋の駒。どうやら現場から無くなったらしい。
もしかしたら、その将棋の駒をASACAと呼ばれる人物が持っているかも……なんて淡い期待を抱きながらパソコンを閉じた。