第90章 過去との決別
『それは、お前が持ってていいものじゃない』
「……ねえ、ファースト」
ロボットの言葉を遮るように男が声を荒らげた。
「何してるっ!さっさと殺せぇっ!」
「……しかし、彼女は」
「口答えをするんじゃないっ!このポンコツの出来損ないがっ!役立たずのクズがっ!」
不意に思い出した。私が前の組織を去った日の事を。あの時のボスも言ってた。セカンドの事を、役立たずのクズだったと。
目の前にいるのはセカンドじゃない。それに似たロボットで、それでも……二度もセカンドを侮辱されたような気がして、頭の奥深くがプツンと切れた気がした。
そして、意識するより早く男の肩を撃ち抜いた。
「ぎゃあああああっ!」
『うるさい。黙れ』
もう片方の肩を撃ち抜くと声にならない悲鳴をあげた。逃げるつもりなのか、撃たれていない方の足を必死に動かしている。片足だからろくに移動できてないが。
「ひいっ……い、いやだっ、助けてくれっ」
『ずいぶん虫のいいことを言う。まあ、ここから逃がしてやったところでどこかで野垂れ死にするのがオチよ』
「な、なんでもするっ、金でも何でもくれてやるっ……だから命は……」
『……』
男の頭に向けて拳銃を構える。が、私が引き金を引くより先に発砲音がして男の脳天に穴が空いた。
『……なんで』
拳銃を構えていたジンに向けて問うと、ジンは口角を上げた。
「てめぇに譲ったのはソレだけだ」
『でもっ……』
「さっさと終わらせろ……それとも俺が殺ろうか」
『だめ、これは私が……』
そう言ってロボットに向き直った。ロボットは柔らかく笑みを浮かべている。
『ボスが死んだのにどうしてそんな顔してるの?』
「……嬉しいんだと思う。私の為に怒ってくれて」
お前の為じゃない、と言いたかったけどどうにかそれは飲み込んだ。ロボットは拳銃を地面に投げ捨てたから。
『抵抗しないのね』
「……私がいる意味はなさそうだから」
『賢くて助かるわ』
「本当は、貴女と一緒にいたいんだけど……もっと貴女の事知りたかった」
『……』
「植え付けられた感情だとしても、貴女の事好きだったよ」
ロボットはそう言いながら首にかけられたチェーンを外してこちらに投げてきた。
「貴女が持ってて。本当の私を忘れないであげて」
『……当たり前よ』
「そうだ。あと1つ教えて?」