第90章 過去との決別
「了解」
そう言ってロボットは拳銃を両手に構えた。そして、あろう事か護衛の男に向けて発砲していく。流石に予想外の事だったようで、男は青ざめて口を震わせている。
「フッ……敵と味方の判断もできねぇのか」
「……皆殺しの命令でしたから」
ジンが笑うとロボットの持った銃口がジンに向けられた。ジンがロボットに拳銃を向けるのを制し、私がジンの前に立つ。
「なんだい、アタイが殺ろうか?」
『お願い。手、出さないで』
キャンティの声に答えて私も拳銃を抜いた。
「……貴女の事は傷つけなくないよ」
『勝手に言ってればいいわ。私はお前に消えて欲しい』
「どうして?前より本物っぽくなったと思うんだけどな」
『ふざけるな。お前はあの子とは違う』
「だったら貴女が教えてよ」
『断る。悪いと思ってるなら消えて』
「それは……嫌だなぁ。今日来てくれて本当に嬉しかったのに」
困ったように笑う顔もそっくりで、それでも気持ちが揺らがないように拳銃を強く握りしめる。
「そこどいて?皆殺しの命令なの」
『なら、私から殺ればいいんじゃない?できるものならね』
「おいっ、何してるっ!さっさと殺れっ!」
男が情けなく喚く声が響いた。数秒遅れて拳銃の音も。
「ぎゃああああっ!!」
「少し黙れ」
ジンの撃った弾が男の足を貫通したようだ。汚い悲鳴をあげてのたうち回る様子を視界の端で捉えながらロボットを見るが、驚く程表情が変わっていない。
『何も思わないの?あの男が撃たれて』
「自由になれたら、貴女と一緒にいられるかなぁって」
『どうしてそこまで私にこだわる?』
「……前の私は、きっと貴女の事が大好きだったんだと思うから」
そう言って右手の拳銃を下ろし首元に手を入れた。その指にはチェーンが引っかかっている。見覚えのあるものに目を見開いた。
『なんでそれをっ?!』
「やっぱり知ってるんだ。前の私が持ってたものだから……っ!」
我慢できなくて引き金を引く。放たれた弾は右肩を貫通した。が、血が出てくる様子もないし痛覚もないらしく、ロボットはまた少し困ったように笑った。
「……本当に大切だったんだね」
『当たり前よ』
「私じゃ代わりにならないかな」
『なるわけない』
「だってこんなに似てるんだよ」
『それでも……お前は人間じゃない』