第89章 私の居場所
赤井side―
阿笠邸に仕掛けた盗聴器からはあの少女のすすり泣く声が聞こえる。
マティーニに会いにいくとボウヤに聞いた時は耳を疑ったが、組織にいた頃の2人の関係を思い出し問題はないだろうと伝えた。しかし、そうは言っても絶対安全とは言えないから、監視役も買って出たのだが。
楽しそうな話をしている様子ではなかったし、店から出できた2人は分かれてすぐ涙を流した。
マティーニを追う、と言ったボウヤを止めようにも少女を放置していくわけにもいかず、阿笠博士に連絡を取った。博士と少女が阿笠邸に入るのを見届けてから自分も工藤邸に入った。
それから1時間と少し経った頃。呼び鈴が鳴らされた。誰かと思えばボウヤが入ってきた。変声機のスイッチを切り替えて声をかけた。
「心配したぞ」
「……ごめんなさい」
「無事ならいいが……何か収穫はあったのか?」
「うん、まあね……灰原は?」
「ずっと泣いてるようだ」
「……そっか」
ボウヤの様子もいつもと違う。何か吹き込まれたのかと聞こうとした時、目の前に袋が差し出された。
「……これは?」
「亜夜さんが、赤井さんに渡して欲しいって。調べたけど盗聴器とかはないみたいだから」
それを受け取って中を確認する。そこには、いつだかのパーティであの女に貸してやったジャケットと、見覚えのないラッピングされた箱。
「それ……明美さんからのプレゼントなんだって」
「は……?」
手に取った箱を取り落としそうになって慌てて掴む。
「どういう事だ?」
「詳しい事は聞いてないよ……たぶん、組織を抜けたら渡すつもりだったんじゃないかって。でも、亜夜さんも中身は知らないって」
「……」
「開けないの?」
ボウヤの問いに手が止まる。ジャケットはまだしも、これを俺が受け取る権利はあるのか?明美を利用して、守る事すらできなかった俺に。
「亜夜さん、赤井さんが死んだと思ってたはずなのにずっとそれを持ったままだったんだよ」
「……」
「明美さんも……受け取って欲しいと思うんじゃないかな」
「……」
「じゃあ、僕行くね」
ボウヤが去った部屋で大きく息を吐く。そして、包みを開いた。そこにあったのはシンプルなデザインの腕時計。
それが贈り物にされる意味を思い出し、ただ呆然とした。