第89章 私の居場所
『どういうつもり?』
「そのままの意味だよ」
『組織を裏切れって?冗談じゃない』
「……もう裏切ってるようなものでしょ」
『……それとこれとは話が別よ』
「アンタは他の奴らとは……」
『貴方がそう思いたいだけでしょ?私の何を知ってるの?』
「他の奴らとは違う。そうじゃなきゃ、あんなに普通に世間に溶け込めるわけがない」
『ははっ……普通って何?』
思わず笑いがこぼれた。コナン君の視線を感じながら言葉を続ける。
『貴方の言う普通と私の知ってる普通は同じじゃない』
「そんな事……」
『へぇ……じゃあ、誰しも何の罪のない家庭に生まれて育つのが当たり前だって事?』
そうだったら、私はこんな世界に生きていない。
『両親を知らない。物心ついた時にはあらゆる知識や技術を教えこまれて、人を殺す事を覚えさせられて……それが私の中での普通よ。貴方達と私は生きる世界が違うのよ』
「……」
『例え罪になる事を知っているとしても、私は組織を捨てる事はできない。組織がなければ、私はきっともうこの世にいない。彼らに救われたようなものよ』
「……アンタもしかして10年前の」
『あら、時間切れね。ついたわよ』
ポアロが見えるところに車を止めた。そして、1つ思い出して後部座席に置いてあった紙袋をコナン君に差し出す。
『貴方、赤井秀一の居場所を知ってるわよね?代わりに渡しておいてくれない?盗聴器や発信器の類はついてないから安心して』
「これは?」
『前に借りた物と、もう1つは明美からのプレゼント』
「え……?」
『中身が何かは知らないわ。きっと、組織を抜けたら渡すつもりだったんでしょうね』
「……わかった。渡しておく」
『それと、名探偵の貴方に1つ依頼をしようかしら』
「……何?」
『志保の事、絶対に守って。あの子はもうこちら側の人間じゃない』
「そんなの当たり前だ」
『よかった。それともう1つ……あまりにもこちらに関わろうとするならその時は、貴方の周囲の人間に危害が及ぶ。その事を理解して行動する事ね』
「……ああ」
『それじゃ、この先会わない事を祈るわ』
コナン君が車をおりたのを確認してすぐに車を出した。
ずっと持ったままだった赤井の物が手元を離れた事で、いくらか気分が楽になった。子供達に借りた物は……またタイミングを見よう。