第89章 私の居場所
「……アンタにどんな考えがあったとしても、助けられたのは事実だ。だから、それに関しては感謝してる」
『……そう』
律義なものだ。結果的にあの子達と知り合って楽しめた事も多いし、助けた事を後悔してるわけじゃない。でも、何かが狂い始めたのはあの日からなのかもしれない。
「……いつ俺の事に気づいた?」
『割と早い段階でその可能性は考えてたわ。あの薬によって幼児化したマウスを見せてもらっていたし……工藤新一によく似ているとは思ってたけど確信はなかった。工藤新一と貴方の指紋が一致したっていうデータを見せてもらうまではね』
「指紋のデータ……?」
『ええ』
「……アイリッシュか?」
呼ばれた名前に目を見開いた。慌てて路肩に車を止めてコナン君の方を向く。
手は強く握りしめていないとコナン君に掴みかかってしまう気がした。
『どうしてその事を知ってるの?どこで彼に会ったの?』
「アイリッシュが言ってたんだよ、俺を使ってジンを失脚させるって……東都タワーで」
NOCリストが入ったカードを手に入れる、あの時事件の事だろうか。でも、アイリッシュはあの場所で始末されたと聞いた。
『貴方まさか、彼が死んだ時そばにいた……?』
「ああ。一発目の弾は急所から外れていたし助けたかったけど、俺をヘリの弾丸から庇ってくれてアイリッシュは……」
『……なにそれ』
アイリッシュの変装がバレて、そのまま放置すれば組織が危なかった。だから、始末された。コナン君がいなくてもアイリッシュは助からなかったかもしれない。それは理解している。だから、私の胸に渦巻くのは別の感情だった。
『なんで、貴方なの』
「え……?」
『貴方、明美が死んだ現場にもいたのよね?どうして貴方が2人の最後に立ち会えるのよ?』
我慢できなくてコナン君の小さな肩を掴んだ。
『いつもそうよ。私が気づいた時には全部終わってるの。皆、私の知らないところで死んでしまう。助けたかったのに……っ』
私の目から涙が一筋落ちた。
『……ずるいわ、貴方』
私にできなかった事をしている。羨ましいし憎らしい。
涙を拭って車を出した。もう話す事もないだろう。一応送り届ける事はしないと。
「……亜夜さん」
『……』
「こっち側につく気はない?」
『は……?』