第89章 私の居場所
『それで聞きたい事って?』
車を走らせ始めてしばらく経つが、コナン君が口を開かなかったから私から声をかけた。
『ないならポアロの前でおろすけど』
「……灰原と何話してたんだよ」
『あら、てっきり聞いてると思ったわ』
「聞いてないよ……プライベートな事しか話さないって言ってたし。でも、あいつ泣いてだろ」
『……いろいろ抱えてたんだと思うわ。やっと吐き出せて気が抜けたんじゃない?』
「……そうか。じゃあ、アンタが泣いてたのは?」
『……大切な子ともう会えないんだもの。仕方ないじゃない』
「会えない?」
『志保だけじゃない。蘭ちゃんや園子ちゃん、子供達にも会わないわ。ポアロにも行かない。それなら少しは安心でしょ?貴方達に教えた番号もアドレスも使えなくするから』
何も伝えないまま会えなくなるのは少し寂しいけど、いつかきっと忘れられるだろう。それが予想より早くなっただけだ。
『もう終わり?』
「いや……まだ。なんで、俺達の事話してないんだよ」
『どういう意味?』
「俺や灰原の事も、安室さん達の事も……まだ何もないって事は組織に報告してないんだろ。なんでだよ」
『……ただの気まぐれ?』
「ふざけてないで……」
『バーボンとキールにはちょっとやってもらいたい事がある。貴方には余程の事がない限り手は出さない。志保を傷つけようとするヤツは誰であっても許さない……これで答えになる?』
「やってもらいたい事って何?」
『それを貴方に教える義理はないわね』
今日、そのやってもらいたい事がやっと定まったというのも黙っておこう。
「あの日、どうして観覧車にいたんだ」
『勘ね。わりと悪い勘って当たるのよ』
「……」
『ずっとこの世界にいるせいかしらね。貴方もあるでしょ、探偵の勘みたいなもの』
そう答えるとコナン君は少し俯いて黙り込んでしまった。そしてまた顔を上げた。
「パーティの時に蘭と園子を助けてくれたのはどうして」
『……なんとなく』
「は?」
『本当になんとなくよ。予定ではあの誘拐犯の現場を抑えて金ヅルにしてやる予定だったんだけど……どうしてかしらね。助けたいと思ったのよ』
「……なんだよ、それ」
『だから、私に感謝する必要なんて全くないのよ。まあ、私の気まぐれが起きなければ、きっと2人とももうこの世にいなかっただろうけど』