第89章 私の居場所
「……本当にもう会えないの?」
『……ええ』
小さな体をぎゅっと抱きしめる。泣きそうになるのをどうにか堪えるためにゆっくり息を吐いた。
『会えなくなるけど……貴女達を姉妹のように思い続ける事は許してもらえるかしら』
「当たり前じゃない……!」
『……よかった』
体を離し、志保の頬を流れる涙を指で拭う。そして、頬に顔を寄せてそっと口付けた。
『貴女達に出会えて幸せだったわ。本当にありがとう。大好きよ』
「……私も、ずっと大好きでいるから」
『うん』
立ち上がってもう一度大きく息を吐く。本当に、これで最後だ。
『さようなら、志保。幸せに生きて』
そう言い残して踵を返すと、途端に流れ出す涙。志保も泣いているかもしれないが、もうそれを拭ってあげる事はできない。
気持ちが揺らぐ前にここから離れないと。流れる涙を何度も拭いながら足を進めた。
車を止めてあった場所についた。そこで後ろを振り返る。
『気づいてないとでも思った?』
そう言うと柱の影から顔を出したのは、コナン君だった。
『私の行く先に、誰かいるとは思わなかったの?』
「灰原が近くにいるのに、アンタがそんな事するわけないだろ」
『……それもそうね』
コナン君と向き合う。人通りはあるが、こちらの様子を気にする人はいないようだ。
『……志保は?』
「博士が連れて帰った」
『そう。それで、貴方は何の用?』
「聞きたい事がたくさんある」
『……その様子だとこの場所で話すべきじゃなさそうね』
そう呟いて車のロックを外した。
『乗って』
「は……?」
『今のところは誰とも会う予定がないから安心して。今日だけよ』
そう言ってもコナン君は動き出そうとしない。当たり前か。敵のテリトリーに入り込むなんて。最悪の場合、このまま死ぬかもしれないんだから。でも、今日を逃せばこの先会話する事はできない。
『どうするの?』
「……信じていいんだな?」
『さあ、自分で決めなさい』
コナン君は少し迷ったようだが、すぐに覚悟を決めた表情になった。助手席の方に向かったのを見て、私も運転席に乗り込んだ。
『一応言っておくけど……盗聴器とか発信器付けようなんて考えないでね』
「……わかってる」
コナン君がきちんとシートに収まったのを確認して車を出した。