第89章 私の居場所
「その、ずっと、謝りたくて……」
『謝る?どうして?』
なぜ志保が私に謝るのだろう。思い当たる事が何もなくて首を傾げた。
「だって私、お姉ちゃんが死んだ時、貴女に酷い事言った……!貴女は悪くないのに!」
『……そんな事ないわよ。貴女は私を責めていいの』
「だって知らなかったんでしょ?!それなのに……」
『確かにそうね……でも、私が彼らを甘く見ていた事が1番の原因よ。もっと早く逃がしてあげるべきだったのに』
「でも!」
『いいの。だから謝るなんて事しないで』
テーブルの上に置かれた志保の小さな手がぐっと握られた。私を見つめる瞳も大きく揺れている。
「それだけじゃないの……私、ジンと……」
少しずつ小さくなっていく声に、全て言われなくても理解した。胸の奥にピリッとした痛みが走った気がしたが、その行為に及ぶまでに志保の意思があったとは思えない。
『貴女の意思じゃないでしょ?』
私の問いに志保は小さく頷いた。テーブルの上の手を私の手でそっと包む。
『じゃあ、謝る必要ないわ。ありがとう、話してくれて』
「なんで、なんで怒ってくれないの……」
志保の目から涙がこぼれ落ちた。ポロポロ流れる涙を拭う姿を見て、志保の隣に座り、その小さな体を抱きしめた。そのまま頭を撫でてあげる。何度もしゃくり上げる声が聞こえて、ずっとこの子に辛い思いをさせていた事を知った。きっと何度も自分を責めていたのだろう。
『ずっと辛かったよね……ごめんね、そんな時にそばにいてあげられなくて』
そう言っても志保は小さく首を振るだけだ。そっと体を離して顔を覗き込む。真っ赤になった目からはまだ涙が流れ続けている。
『貴女が自分を許せないなら、私が許すから。ね?』
「ん……」
志保が頷いたのを見て、またそっと抱きしめた。
『落ち着いた?』
しばらくして声をかける。涙は止まったようで、それでも擦りすぎたのか目だけじゃなくて全体的に顔が赤くなってしまっている。
『家帰ったら顔ちゃんと冷やすのよ』
「……うん」
『そろそろ出ようか』
荷物を持って立ち上がる。会計を済ませ店の外に出ると、私の手に志保の手が触れた。
「……本当にもう会えないの?」
『ええ。今日で最後』
志保と目線を合わせるために屈む。そしてもう一度、これが最後だと思ってその体を抱きしめた。