第9章 すれ違い
亜夜side―
ドアが急に開くから驚いて後ろへ引いた。そのまま開け放して行くから後に続いて部屋へ入った。
ジンに一言告げて、洗面所で変装を解く。声色の感じ……初めて会った時みたいで少し怖い。
部屋に戻ると先程と変わらない姿勢のジン。灰皿にはタバコの山。潰されたタバコの箱が見える。イラついているのか、指がトントンと机を叩く。
話があるとは言ったものの、どう切り出していいかわからない。それほどの威圧感がある。
『えっと……あの時怪我しなかった?』
「……ああ」
『そっか……よかった』
「……」
『あ……えっと、コートごめんね。新しいの買うから』
「……必要ない」
『あ……そう……』
「……」
会話が続かない。時間だけが進んでいく。
「……終わったなら帰れ」
『え……いや、まだ……』
部屋に入ってから1度も目が合わない。吐き出される言葉にも刺がある。
『……あの時、もっと早く気づけてたら迷惑かけなかったよね……ごめんなさい』
そう言うとジンの指が止まる。
『私、まだまだ駄目な所たくさんあるよね……だから……』
「……どうして」
『え?』
「どうして俺を責めない」
ジンの顔がこちらを向く。髪で隠れて表情は見えないけど、怒ってる……?
『だって、ジンは悪くないでしょ……怒るも何も……』
「俺が来るように言わなければ、お前が撃たれることもなかった」
『……それって私がいなければ、ジンが撃たれてたってことでしょ?いいよ、気にしなくて……』
そこまで言って言葉が止まる。目に飛び込んできたジンの目の下……濃い隈。
『ジン……寝てないの?大丈夫?』
思わずジンの顔に手を伸ばした。
パシン
しかし、それは振り払われた。
『……っあ、ごめん。嫌だった……よね』
払われた手は少し痛む。
でも、それ以上に悔しかった。ジンの気持ちが理解できなくて。
『ごめん、私、何しちゃったかなっ……?』
ジンがこんな態度なのは、きっと私に原因がある。
「……下手したら死んでたんだぞ」
やっぱりあの時のこと……?
『大丈夫だよ。今生きてるし、傷ももう痛くないし……』
「もう……俺に近づくな」
静かに告げられた言葉。拒否したいのに声が出ない。心臓が鷲掴みにされたみたいで、どうしようもなく苦しい。