第87章 治療と情報
『……一度見ました。何か知ってるんですか?』
「たまたま見かけてな……一瞬本人が生き返ったのかと思った」
手を強く握り締める。あんなモノ、存在しなくていい。アレはセカンドじゃない。
『アレについて知ってる事があるんですか?それとも、貴方もアレに関わっているんですか?』
「いいや、大したことは知らん。それに俺はロボットには興味がない」
『知ってる事を教えてください。アレは、私が壊す』
アレを壊して、あわよくばその組織ごと消し去りたい。怒りがフツフツと湧き上がってくる。
「……気をつけろ。人の形をしているが、アレは兵器と遜色ないぞ。学習能力が極めて高く、状況判断も正確だ。加えて痛覚がないから動けなくなるまで攻撃を続けるだろう。急所だってどこにあるかはわからない。最悪、死ぬぞ」
『……大丈夫です。きっとアレは私を攻撃したりしない』
処置が終わったのを確認して服を着る。血を抜かれたせいか少しだけ視界が揺れた。
『お金は?』
「……その髪くれたらもう少しまけてやる」
『髪は……駄目です』
ジンに切るなと言われたし……なんて思いながら髪を結い上げる。
「お前、人間っぽくなったな」
『……どういう意味ですか』
「表情がちゃんと変わるし、命令に背くような事をしなかったお前がどういう訳かそれを隠そうとする。何かに救われた、って感じだ」
ドクターがピラッと渡してきた領収書の金額を見て、それを握り潰しかけたがどうにかそれを堪える。
「そういうところもな」
『……』
あのまま前の組織にいたら私はとっくに死んでいるだろう。今の組織は居心地は良いけど自分のせいで苦しくなってる。ついて行くと決めた事を後悔しているわけではないが、あのまま死んでいればこんな思いをする事もなかったのではとも思ってしまう。
「まあ、死にたくなったらその体貰ってやる」
『あいにくですけど……私の命は私のものではないので』
「……チッ」
『それじゃあ、ありがとうございました』
「ああ、またなファースト」
『二度とその名前を呼ばないでください』
ドクターを軽く睨んでその場所を後にした。
何の薬を打たれたのかわからないが、腕を含め怪我した所はどこも痛くない。ドクターの存在は今でこそ噂程度だが、その存在が知られれば多くの組織が手に入れようとするだろうに。