第87章 治療と情報
夜にはアジトへ戻らないとな……なんて考えながら車に戻り、スマホのニュースを見る。東都水族館の一件での死亡者は犯人のみ……そういう事になったのか。一応確認したが、ヘリの情報はどこにも書かれていなかった。
やはり、気が重い。キュラソーが死んだ事も、組織を裏切るような真似をした事も。車のシートに深くもたれかかる。
もし、この先ジンが私を殺してくれないような事があれば……その時は全部ドクターにあげてもいいかもしれない。
大きく息を吐きエンジンをかけようとした。が、スマホが震え始めたからそれを手に取る。震えているのはプライベート用のスマホだ。表示されているのは非通知の文字。無視しようかとも思ったがなんとなく取った方がいいような気がした。警戒しながら通話ボタンを押して相手の言葉を待つ。
「えっと……」
遠慮がちな声が聞こえた。それが誰のものなのか間違えようがなかった。
『貴女、何考えてるの……?!』
「ごめんなさい……」
思わず強く言ってしまってハッとした。弱々しい謝罪の声に罪悪感が湧く。
『違う、責めたいわけじゃ……でも、危険だってわかってるでしょ?今は1人だから良かったけど』
「ごめんなさい……でも、早く連絡しなきゃ亜夜姉にもう会えない気がして」
そう言われてしまえばどうしても許そうとしてしまう。線引きはしっかりしないといけないのに。彼女は、志保はもうこちら側の人間じゃないのに。
『何かあった?』
「会って話がしたいの。助けてくれた事のお礼とか」
『私が勝手にしただけよ。気にする事ないわ』
「でも……」
『……わかったわ。3日後の15:00にいつもの喫茶店。ちゃんと顔は変えてくる事。私もいつもとは違う顔にしていくから』
「……ええ」
『店についたら入ってくる前にワンコールだけ電話して』
「わかったわ」
『それじゃあ、3日後に』
「うん。ありがとう」
切れた電話を眺めて少し後悔する。本当に良かったのだろうか。それでも会いたいと言われたのは嬉しかった。
せいぜい1時間。それ以上は志保が危険だ。きっとあの少年は発信機や盗聴器をしかけてくるだろう。むしろ、そうしてくれた方がいい。最悪の事は起こさないが、万が一のためにも。
でも、今は……ジンとの話を終わらせないと。今度こそエンジンをかける。そして、アジトまでの道を急いだ。