第86章 純黒の悪夢
コナンside―
子供達がイルカのストラップを蘭に見せながら楽しそうに話している。その様子を何とも言えない気持ちで眺めていた。
あの時、あのクレーン車を運転していたのがキュラソーであった事を灰原に聞いた。そして、いつの間にか姿が見えなくなっていたマティーニが子供達と一緒にゴンドラ内にいた事も。
「このキーホルダー取ってくれたお姉さんもそうだけど……観覧車に来てくれたお姉さんも元気かなあ?」
「救急隊の人を呼びに行くって言ってたから大丈夫だと思いますけど……」
子供達の話を聞きながら横に座る灰原を見た。
「なあ、あの人は一体……」
そこまで言って言葉に詰まった。組織の人間である事はわかっている。しかし、こちらに加担した事も、俺の正体に気づいてる事も、わざわざ顔を変えてポアロに来ていた事も……俺が思う組織の人間からかけ離れている。
「……話してあげてもいいけど、条件があるわ」
「なんだよ」
「彼女の連絡先知ってるんでしょ?教えて」
「はぁ?!お前何言って……」
「そう。じゃあ私から話す事は何もないわね」
「あ、いや……なんで連絡先なんか知りたがるんだよ」
「一緒にお茶でもしようかと思って」
「駄目に決まってんだろ!何かあったらどうすんだよ!」
予想もしてなかった言葉が飛び出してきて思わず声を荒らげた。マティーニはジンとそれなりの関係だと聞いていたし、もしもジンが現れたりしたら最悪の事だって考えられる。
「亜夜姉はそんな事しないわ」
「なんでそんなに信じられるんだよ……」
「あら、私達がこうして生きている事が何よりの証拠じゃない?」
「それは、そうかもしんねえけど……」
確かにそうだ。ベルツリー急行の時だけじゃない。それより前にも俺と灰原を消せるタイミングはあったはずだ。今回も……赤井さんや安室さんからの連絡はないし、きっと2人の事も組織にリークしてないのかもしれない。
「油断させてるだけかもしれねえし……」
「そこまで渋るならいいわ」
「……」
情報は欲しい。でも、灰原がマティーニに会う事を考えると……まてよ、灰原がマティーニを、亜夜さんを警戒した事なんてないよな?
「なんであの人の事、警戒しないんだよ」
「あら、言ったことなかったかしら?彼女だけは、他の奴らからする嫌な匂いを感じた事ないのよ」