第86章 純黒の悪夢
ちらりとバーボンに視線を向けたが何も言わない。だが、雰囲気が一気に張り詰めた。バーボンが公安からのNOCであるのは間違いなさそうだ。キールは……FBI?だとするといろいろ不自然な気がするが……どちらにせよ彼女もNOCだ。
「これから僕達をどうするつもりで?」
『……考えているところよ。このまま引き渡してもいいんだけど、それだと味気ないでしょ?』
「貴女が組織のヘリを攻撃した事がバレたらどうなるんでしょうね」
『そうね……多少の処分はあるだろうけど、私の持ってる情報の方は有益だもの。貴方とキール、赤井とあの少年も……ポアロに集まる人間を売る事だってできるし』
「……」
バーボンが私を睨む。いつもと全く違う様子に笑ってしまう。これがこの男の素の状態なのだろうか。
耳に付けた通信機に着信が入った。運転しながらでもいいのだが、今のままじゃバーボンが何かしてくるかもしれない。そう思って路肩に車を止め、拳銃をバーボンへ向けた。
『声出したら殺すわよ』
そう言って通信機のボタンを押した。
「Hi、マティーニ。バーボンは見つかったかしら?」
『ええ。例の水族館の近くで見つけたわ……にしてもずいぶん派手にやったみたいね。どこの局もその話題で持ち切りよ』
「それはジンに言ってちょうだい。キュラソーが逃げなければここまでの被害はなかったでしょうけど」
『キュラソーが、逃げた……?』
「そう。ゴンドラから抜け出したらしいわ」
『……なるほどね』
「あまり驚かないのね」
『たぶん理解が追いついてないの。それにそんな事でもなければわざわざあそこまでしないだろうし』
空いた片手を強く握り締める。気を抜いたら声が震えて涙がこぼれそうだ。
『……ところでメールの裏は取れたの?』
「ええ。あれはキュラソーの送ったもので間違いないそうよ。本人から連絡が来た時にそう言っていたから」
『じゃあ……バーボンとキールは白なのね』
バーボンが息を飲む音がした。そちらを向くと、意味がわからないというような表情を浮かべている。
「理不尽に殺されたくないから逃げたって事じゃないかしら」
『そっか。キールの回収は?』
「今一緒にいるわ」
『よかった。代わりに伝えておいてくれない?疑って悪かったって』
「ええ。バーボンにもそう伝えて」
『わかった。それじゃあ』