第86章 純黒の悪夢
「お姉さん、大丈夫?」
歩美ちゃんの声がして哀ちゃんを離した。どうにか笑顔を作ってみんなの様子を見る。
『ええ。みんなは大丈夫かしら?怪我とかしてない?』
そう聞くと、頷いてくれたので安心して一息ついた。頭をそっと撫でて立ち上がる。
「どこに行くの?」
『救助の人を呼んでくる。みんなはここで待ってて』
「でも」
『お願いね』
哀ちゃんに引き止められかけたが、それを振り切って天井の扉を開けて外へ出る。
『助けが来るまで待っててね』
扉を閉めてレールの上を歩き出した。スマホを取り出してダメ元でバーボンに連絡を入れる。運がいいのか繋がった。
「何の用ですか」
『あら、冷たいわね』
「用がないなら切りますよ」
『……ノースホイールに探偵団の子供達が取り残されてる。貴方なら救助隊を動かせるでしょ?』
「わかりました」
『それと……ここから1km離れた駐車場で待ってるわ。情報をリークされるのが嫌なら早めにいらっしゃい』
それだけ伝えて電話を切る。これで子供達は大丈夫だろう。
人目を避けて観覧車を降り、足早に車の場所へ戻る。体中が痛いし、ライフルはあの瓦礫の中だし……新しいもの用意しないと。そんな事を考えながら車に近づくと、その側で人影が動いた。誰かと思って警戒しながら近づく。
『ずいぶん早いじゃない』
「あんな脅しをされてゆっくりできるわけがないでしょう」
バーボンが目を細める。それを鼻で笑って助手席に乗るように促した。私も運転席に乗り込む。腕の痛みがあるかも、と思ったが運転程度なら問題なさそうだ。
車を走らせ始めたが、私もバーボンも口を開かない。つけていたラジオはどこの局も東都水族館の話題で持ち切りだ。
『テロね……』
「あれだけの事をすれば当たり前でしょう」
『さすがにあそこまでするとは思わなかったわ』
「……なぜ貴女はアレに乗ってないんです?」
『なんとなく。勘に従っただけ』
「本当に良く当たりますね、その勘というのは」
『ええ、自分でも驚くわ』
「褒めてないんですがね」
普段と全く違うバーボンの様子に思わず笑いが漏れてしまう。
『ところで……貴方はどこの人間なの?』
「……」
『1番可能性があるのは日本警察……公安かしら。ああ……だから、スコッチが死んだ時あんなに冷静じゃなかったのかしら』