第86章 純黒の悪夢
前を行くコナン君と赤井の後を追うか、子供達のそばにいるか……本当はこの姿で会いたくなかったが、そばにいてあげよう。2人はレールを滑り降りて行ってしまったし、私がいても何もできない。
子供達のいるゴンドラの天井を足で数回ノックし開いた。全員の視線が向いたのを感じながらその中に飛び降り、すぐに天井を閉める。
「あ、あの時のお姉さん!」
歩美ちゃんの声に微笑んだ。志保……哀ちゃんは少しだけ目を見開いた。
「どうしてこんなところに?今何が起きてるんですか?」
「姉ちゃん、もしかして警察なのか?」
『説明は後でしてあげるわ。今は大人しくしてましょう……きっと止めてくれるわ』
全員の頭を撫でながら言うと、皆こくりと頷き頷いた。
観覧車はまだ止まらない。転がり続けるせいで揺れも大きく、よろける子供達を支えたり抱きとめたり。今はコナン君を信じるしかない。
また、ほんの少しだけ転がる速度が落ちた。何かと思って窓の外、コナン君が向かった方を見ると黒と白の何かが膨らんでいるのが見えた。でも、止まらない。このまま行けば水族館も潰すだろう。
どうしたら、と悩むばかりで何もできない無力さが嫌になる。壁に背を預けたまま歯を食いしばった。
その時、ガツンと大きく横に揺れた。思いっきり何かがぶつかったような、そんな感覚。何があったのかと外を見ると、そこには1台のクレーン車。それが観覧車を押していた。
一体誰が。鉄骨と土煙の上がる中、運転席を見た。そこにいたのは、
『キュラソー……?』
呟くと同時に視線がぶつかった。一瞬驚いたような表情は、すぐに決意した顔になる。そして、キュラソーは何かを叫んだ。
クレーン車に押されて観覧車が傾く。でも、すぐに元に戻って……運転席を押し潰した。そして、煙が巻き上がり爆発した。その衝撃のおかげか、観覧車はクレーン車と水族館の残骸に支えられて止まった。
『あ……』
目の前で起きた事を受け入れられなくて情けない声が漏れる。頭が受け入れることを拒否しているのか涙は出なかった。
そっと、手が握られた。何かと思って顔を上げると、哀ちゃんが私の手を握っていた。その顔からは血の気が引いていて、おそらくこの子もキュラソーを見たのだろう。
情けないとは思うけど、そっとその手を引き寄せて哀ちゃんを抱き締める。その小さな体は小刻みに震えていた。