第9章 すれ違い
「拳銃で撃たれてる……後は頼んだ」
そう言って部屋を出ようとする。
「……あの、こちらは」
差し出されるマティーニを包んでいたコート。血を吸って所々色が濃くなっている。
「処分していい……終わったらベルモットに連絡しろ」
「承知しました」
病室を出てアジト内にある自分の部屋へ向かう。別のコートを羽織り部屋を出ると、ベルモットが壁にもたれかかっている。その表情は険しい。
「何があったのか説明しなさい。あの子今日フリーのはずよね?」
声は怒気をはらんでいる。当たり前だろう。
先程あったことを話した。するとベルモットはため息をつく。
「ひとまず無事なのよね?」
「……たぶんな」
「たぶんって……無責任過ぎるわ」
「……」
それが事実だ。否定のしようがない。
「用ができた……あいつの手当てが終わればお前に連絡が行く」
「待ちなさい、どこに行くの」
「……反乱の意思は早いうちに摘まねえとな」
今日取引した相手の組織を潰す。あいつを……亜夜を傷つけたことは何があっても許さねえ。
「そんな……ラムが許すわけないわ!」
「……知ったことか」
「あ、兄貴……ベルモットも。それでマティーニは……」
「ウォッカ、行くぞ」
そのまま歩き出す。ウォッカが慌ててついてきた。
その夜、ある組織が1つ壊滅した。
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「……っは、はあ……クソっ!」
最悪な夢を見て飛び起きる。あいつがあの場で息絶える夢。
ベルモットから連絡があって、マティーニは一命を取り留めたようだ。しかし、まだ目は覚めないと。
―最悪の場合も覚悟しなさいね。
そう言って切られた電話。その言葉はなんとか保っていた平静を簡単に崩していく。
冷たい水を頭から浴びる。それでも気持ちは沈んだまま。どうにか寝ようとすれば何度も見る悪夢に飛び起きる。数日経ち、体力はとっくに限界なのに、目が冴えて眠れない。
「……死ぬなよ」
その思いが届いたのか、目が覚めたと連絡があったのはあの日から1週間後。それでも、あいつに会いに行く気はなかった。
「兄貴……本当に行かないんですかい?」
「……ああ」
ウォッカが何度か呼びに来たが全て断った。絶対に部屋を教えるな、そう何度も釘を刺して。それなのに……。
部屋に響いたノックの音。