第9章 すれ違い
ジンside―
俺を殺そうと企んでいる組織があると、妙な噂は聞いていた。だからこそマティーニを連れて行くことにした。それなのに……。
マティーニが撃たれた瞬間、思考を埋めつくした怒りと殺意……そして恐怖。
……こいつが死ぬかもしれない。否定しきれない可能性が恐ろしかった。
「……死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」
そのまま護衛を全員撃ち、1人残ったヤツに問い詰める。
「……どういうつもりだ」
「ま、待ってくれ!私たちは金で雇われただけで……」
「誰にだ」
「それは……」
長々尋問する程余裕がない。答えそうもないから、そいつも始末してマティーニの元へ……。
出血が酷い。血が滴り落ちている。額には大粒の汗が浮かんでいる。かろうじて呼吸はあるが、浅くて早い。
……連れて帰る方が早いか。
組織の医療班を呼ぶより、自分の車で戻る方が早いと判断し、コートを脱いで、マティーニを包んで抱き上げる。
「ウォッカ、てめぇはこいつの車で戻れ」
「しかし、兄貴……」
睨みつけると口を閉じた。
「こいつは俺が連れてく……後始末は任せた」
マティーニを助手席に寝かせ、自分は運転席へ乗り込む。
「……死ぬんじゃねえぞ」
そう言って車を出した。
『……ジン?』
マティーニの意識が戻ったのか、名前を呼ばれる。でも、その声はか細くて頼りない。
「……もう少しで着く。目え閉じてろ」
『怪我……しなかった?』
その問いに耳を疑った。何故……今危険なのはマティーニ自身なのに。
「ああ……」
そう答えるので精一杯だった。
『……そう……よかった』
再び目を閉じたマティーニ。
……俺が来るように言わなければ、こいつが撃たれることもなかった。
今更どうしようもない後悔。それを振り切るようにベルモットへ電話をする。
「Hi」
「俺だ。駐車場の扉開けとけ。あと、医療班を待機させろ。10分後着く」
「……何かあったの?」
「説明は後だ」
そのまま返事も聞かず切った。
駐車場に入ると、ベルモットが待っているのが見えた。
「ちょっとジン、説明して……」
気を失ったマティーニを抱き上げると、ベルモットが絶句する。
「……後で話す」
そのまま医療班の待つ部屋へ向かった。