第86章 純黒の悪夢
こくん、と頷いて先を行く志保の後を追う。銃撃が止んだということは……と考えかけたが、無理矢理頭の中から追い出した。今は、子供達の事を考えなくては。
足場の悪いところは志保を抱えたり、少々危険だが飛び移ったりして……いて次の銃撃が始まるかわからないから急ぎ足で先を進んでいく。
「あのゴンドラよ!」
志保が1つのゴンドラを指さした。ここからでは子供達の姿を確認する事はできないが、志保が言うなら間違いないだろう。
『……ここからは1人で行ける?』
「え……?貴女はどうするの?」
『この姿で子供達に会うわけにはいかないし……何よりこのままじゃ危険だわ。アレには帰ってもらわないと』
「でもそんな事したら……!」
『大丈夫。上手くやるわ』
不安げに瞳を揺らす志保の頭をそっと撫でる。
『子供達の事よろしくね』
「#NAME1姉……」
志保は何か言いかけたが、気づかないふりをして私は踵を返し走り出した。
帰ってもらうとは言ったが、私だけじゃどうしようもない。不本意ではあるが……仕方ない。
途中、足を止めて物陰に隠れる。ライフルのバッグを下ろし中を確認した。
『あー、よりによってそれかぁ……』
先程瓦礫が当たったことによって、暗視スコープのレンズが粉々になっていた。大怪我にならなかったと思えば安いものだが……悩んでいる暇はないから、通常のスコープをライフルに取り付けた。
あの男達はどこにいるだろうか。と、足を進めながら耳を済ませる。
「赤井さーん!安室さーん!」
コナン君の声が聞こえた。そちらの方へ足を向け進んでいくと、開けた場所についた。
「そのライフルは飾りですか?!反撃の方法はないのか?!FBI!」
バーボンの声も聞こえる。運良く全員集まっているようだ。
『これだけの顔が揃ってて何もないなんて言わないわよね!』
隣にいたバーボンと下にいた赤井の声が向けられた。
「マティーニっ!」
「何しに来た!」
『事情が変わったの。アレには帰ってもらう』
「何を言って……」
『協力してあげるって言ってるのよ』
背負っていたライフルのバッグを地面に下ろし、風になびく髪をひとつにまとめる。
「お前、暗視スコープ持ってるならよこせ」
『残念だけどさっき壊れたの。これは通常のスコープよ。どうにかしてアレの姿見えるようにできない?』