第86章 純黒の悪夢
亜夜side―
暗闇に包まれてキュラソー奪還の作戦が始まった事を理解した。上を見上げて、キュラソーが乗っているであろうゴンドラを見る。消音モードにしてあるだろうが、この距離なら羽音が聞こえてきた。
このままキュラソーが回収されたら私はここから脱出する。NOCの事はキュラソーの口から伝えられるはずだから、私が何かする必要もない。
ひらり、と何かが見えた。人……あの2人のどちらかだろうか。でも、女みたいな……他にも誰かがここに来ているのだろうか。
そんな事を考えているとバキっ、ギシッ……と音が降ってくる。アームで掴まれた事によってゴンドラのガラスが割れたんだろう。これでいい。そう思ったのに。
ギィっ……
『はっ、嘘っ?!』
ゴンドラが落ちてくる。何が起きているのか理解するより先に本能でその場から駆け出した。
『っ!』
ゴンドラが落ちた衝撃で転んだ。体を起こし走りながら考える。
どうしてゴンドラを捨てたのか。この場でキュラソーを捨てる選択肢があるはずないのに。
『まさか……』
先程見た人影がキュラソーだとしたら?彼女がゴンドラを抜け出し逃げたなら?それにジンが気づいたのだとしたら?
このままじゃ、キュラソーが始末される。
『冗談じゃないっ!』
アレが攻撃を仕掛けてきたらまずい。それより先に遠隔操作で爆弾を爆発させるかもしれない。どちらにしても見つけ出さないと。
人影が降りたであろう場所を推測して走り続ける。しばらく行くとどこからが話す声が聞こえた。走るのを止めて恐る恐るそちらへ近づいていく。
「……さあ、行くよ。シェリーちゃん」
キュラソーの声と発せられた名前に飛び出した。志保もここにいるのか?!
『どこに行くの、キュラソー』
「っ……マティーニ。どうして……」
キュラソーの足元に隠れる志保の姿があった。ゆっくり近づき、キュラソーの手を掴んだ。
『言い訳は後で聞くから。帰るよ』
そう言ってその手を引こうとしたのにするりと抜けていってしまつた。
「ごめんなさい。貴女とは行けないわ」
『な、何言ってるの?』
「ゴンドラを抜け出した時点で私を始末する事は決まったはずよ。帰る場所なんてないわ」
『何か理由があるんでしょ?私も一緒に説明して……』
ガガガッ!
私の言葉を遮るようにヘリが弾丸を撃ち始めた。