第86章 純黒の悪夢
『バーボン、貴方言ったじゃない、取り越し苦労だったって……全部嘘?貴方もそちら側の人間?はははっ……信じてたのに』
目の前の2人の表情が険しくなった。
『赤井が生きてるならキールもそちら側?揃いも揃ってNOCだったなんて……じゃあ、ラムに送られたってメールは何?誰が送ったのかしら』
キュラソーが情報を間違えるなんてありえない。だとするならば、まだいるのだ。組織の事を知っていて、バーボンとキールを助けようとする人間が。
それにしても、あんな場所で何をしていたのか知らないが、目の前の2人には所々にかすり傷があったり薄汚れていたり……多少の疲労はあるようだが、私1人で2人を相手にするのは骨が折れる。
ジリジリと肌を刺す緊張感。誰が動く……動き始めたら私が倒れるか2人が死ぬかまで終わらない。
隙を探す。少しでも気持ちを落ち着けようと細く息を吐く。その時だった。
「赤井さーん!そこにいるんでしょ?!大変なんだ!力を貸して!」
下の方から響いてきた声に、私も2人も一瞬だが意識が逸れた。
まさか、あのメールは。数歩で踏み切り、その声のした方へ飛び降りた。
「やめろ!その子に手を出すな!」
バーボンの声が上から降ってくる。階下にいた人物は予想通りで、彼は状況が飲み込み切れていないようだった。急に上から人が降ってきたら驚くのも当たり前かもしれないが。
彼の目の前に着地すると同時に、その顔に向けて拳銃を構えた。
『まさか、貴方まで関わってるなんてね』
「アンタは……っ?!」
『こっちの顔で会うのは久しぶりね……にしても、あの時効果の不確かな薬じゃなくてちゃんと始末しておくんだったわ』
「薬……」
『そうでしょう?』
工藤新一君?声を発さずに口の動きだけで彼の本当の名前を呼ぶ。その目が大きく見開かれていった。
「アンタ、奴らの仲間、なのか?」
『奴ら?貴方どこまで知ってるの?』
「だって、アンタあの時……」
「マティーニ、その子から離れろ」
頭上から降ってきた赤井の声には殺気が込められている。きっとライフルでも向けられているんだろう。
『残念だけど、貴方の弾が私に当たるよりこの子の頭が吹き飛ぶ方が早いわ』
顔を向けずに、事実を淡々と伝える。目の前の彼は、更に酷く顔を歪めた。
「マティーニって……アンタ、亜夜さんなのか……?」