第86章 純黒の悪夢
元々着ていたライダースーツの上から作業服を着込んで帽子を被る。背にはライフルのバッグ。そして何食わぬ顔をして、関係者以外立入禁止と書かれた扉を開けて中に入った。無事園内に入り込み、たくさんの人の間を縫って向かう先は観覧車。
「ったく、どこにいるのかしら?」
「これだけ人もいるし簡単には見つからないよね……」
馴染みのある声に視線だけを正面へ向けると、そこには蘭ちゃんと園子ちゃんがいた。帽子を目深に被って2人の横を通り過ぎた。
この前、ポアロで蘭ちゃんが話していたことを思い出す。この素顔を覚えらているようだし、今足止めを食らうのは困る。幸い気づかれなかったようだ……。
「え……?あの人……」
「蘭?どうかした?」
「あ……ううん。なんでもない!」
なんて2人が話していた声は私には届かなかった。
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観覧車内部に入り込めた。あとはキュラソーの乗っているであろうゴンドラが回収されるのを見届けるだけだ。
無事に終わって欲しいものだ……もし、そうなったらせっかく仕掛けたが爆弾は回収しないと。
近くに来てないか……まだ聞こえないヘリの羽音。来たら見えるかな、なんて思いながら上を見上げると花火の光が隙間から見えた。
『ん?何?』
上の方で何かが動いた。人……2人いるか?作業員かと思ったが、こんな夜中にする事なんてあるだろうか。花火による逆光のせいで姿はよくわからない。
頭の中で警鐘が響く。行け、行くな、対の言葉が交互に浮かんだ。どうすべきだろう……そんな事を考えていると、ぐらりと人影が揺れた。そして、2つの人影が落ちてくる。
『っ……!』
観覧車内部の照明に照らされて見えた姿に息を飲んだ。そして、気づいた時には駆け出していた。
まさか、そんなはずはない。そんなことあってはならない。見たものを信じたくなくて、でも確かめなければならないから……ホルスターから拳銃を抜き取り、人影が落ちてきた場所へ続く階段を二段飛ばしで駆け上がる。そして……
『動くなっ!!』
「「?!?!」」
声を上げて拳銃を構えた私に2つの視線が向けられた。その目が見開かれていく。震える手から拳銃を落とさないように、両手で強く握りしめた。
私は、拳銃を向けた。この場所に……いや、この世にいてはならない男に。
『どうして……どうして貴方が生きてるの?!赤井秀一……っ!』