第86章 純黒の悪夢
「ウォッカ、行くぞ。車を回せ」
ベルモットの問いには答えずジンは倉庫を出ていった。ウォッカとベルモットも行ってしまって慌ててその後を追いかける。そして、エンジンがかけられたジンの車の助手席側の窓をコンコンと叩く。窓が開けられたので、持っていた物を差し出した。
『これ、観覧車に仕掛けた爆弾の遠隔操作スイッチ。必要なら持ってって』
「……」
『私、別で動くから』
「……どういうつもりだ」
『例の機体出すんでしょ?ジンとウォッカと……キャンティとコルンも乗るのかな?サポートにベルモットが回るとして……私がいても何もすることなさそうだし。バーボンを探すよ。あのメールが偽物だった時、すぐに始末できた方がいいと思うから』
「……勝手にしろ」
『ん。ありがと。終わったら連絡お願い……あと、あんまり目立たないようにね』
そう言う私の手から遠隔操作スイッチを取り、ジンの車は行ってしまった。
一度、私の車に行き応急処置用の道具を持って倉庫内へ戻る。繋がれたままのキールのそばに寄ると、訝しげな視線が向けられた。
「……どういうつもり?」
『ただの自己満足よ』
そう言いながらキールの肩にガーゼを強めに当てる。呻き声が聞こえた気がしたが、そのまま圧迫しながら包帯を巻いた。
『あのメールの裏が取れたら迎えに来てあげるから。これっきりにならないことを願ってるわ』
それだけ言い残し、私は倉庫を出た。
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東都水族館から1kmほど離れた駐車場に車を止めた。
ジンにはあんな風に言ったけど、バーボンの居場所がわかるわけではない。身の潔白を証明するならキュラソーの奪還に協力するかもしれないけど……なんて考えながら車の外に出て、遠くにある観覧車を見た。もう夜になってしまった景色に、観覧車を照らす光がよく映える。
ジン達は例の機体で空から来る。アレの性能を思い出すが……ゴンドラごと回収するつもりだろうか。その方が確実か。
でも、なんだろう……この胸騒ぎは。また何か、想定外のことが起きる気がする。私の勘が、あの場所に向かえと訴えかけてくる。
私の勘はいい事も悪い事もよく当たる。今日はどっちもありそうだ。従った方がいいだろう。そう思って、トランクを開けライフルのケースを取り出す。そして……爆弾を仕掛けた際に拝借した東都水族館のロゴの入った作業服を持った。