第86章 純黒の悪夢
扉を開けて入ってきたジンの顔は、夕日を背に浴びているせいでよく見えない。それでも、肌に突き刺さるような殺気を感じた。そしてそれは、発光器に照らされた顔を見たことで更に強く感じるようになった。
壁際の方へ寄って少し距離を取り、もう一度ジンを見る。苛立っているのはわかった。そこに、若干の楽しさも入っていることも。
「我々にNOCの疑いがかかっているようですね」
バーボンがそう言うと、ジンは私のすぐ近くにあった木箱に腰をおろした。
「キュラソーが伝えてきたNOCリストにお前達の名前があったそうだ」
ジンの言葉を聞いて、バーボンの視線がチラリとこちらを向いた。
「キュラソー……ラムの腹心か」
「ええ……情報収集のスペシャリストよ」
「知っているようね」
2人の言葉にベルモットが微笑んだ。
「外見の特徴は左右で色が違うオッドアイ」
「組織じゃ有名な話よ……」
そして今度はウォッカがニヤリと笑った。
「昔のよしみだ……素直に吐けば苦しまずに逝かせてやるよ……」
「フッ……僕達を暗殺せず拉致したのは、そのキュラソーとやらの情報が完璧ではなかったから……違いますか?」
「さすがだな、バーボン……」
キュラソーが送ってきた情報ではこの2人が本当にNOCなのか確証が得られなかった。でも、この様子だと……NOCであれば絶対なのだが、そうでなかったとしてもここで消されそうだ。
会話が進んでいく様子をただ眺めていた。いつか、私も今拘束されてる2人と同じようになるのではないか、そう思ってしまって。
「ジン!我々が本当にNOCか、それを確認してからでも遅くないはずよ!」
「確かにな……だが」
ジンはゆらりと立ち上がり2人に向けて拳銃を構えた。
『ちょっと……!』
「ジン!」
「兄貴?!」
思わず声を上げた。一瞬、ジンの視線が私に向けられたがすぐに逸らされてしまう。こうなってしまえば何を言っても無理だ、きっと2人は……もう。
「疑わしきは罰する……それが俺のやり方だ。さあ、裏切り者の裁きの時間だ」
ジンはくわえていたタバコを地面に落とし、それをつま先で踏みつけた。
直後、一発の銃声が響いた。
『っ……!』
ボタボタと血が垂れる音と何か金物が落ちた音が聞こえた。撃たれたキールはうめき声を上げてしゃがみこんでしまった。