第86章 純黒の悪夢
「……ええ」
『そう……着いたら話してあげるわ』
しばらくして、指定された倉庫についた。私が一番早かったみたいだ。怪訝そうな顔をしたキールに車をおりるように促すと、渋々といった様子でシートベルトを外した。
「……本当に何?」
『とりあえず、こっち来て』
「……」
『はやく』
キールの腕を掴んで倉庫の中へ足を進める。そして、ちょうどいい柱の前に立ち、キールの片方の手首に手錠をはめた。
「な……どういうつもりっ?!」
『仕方ないでしょ。それと、さっきも言ったでしょ?手荒なことはしたくないの。大人しくしてて』
「こんなことされて大人しくできるとでも?」
『貴女達にNOCの疑いがかかってる』
「え……」
『今すぐに死ぬのが嫌なら大人しくしてて』
「……わかったわよ」
そう言って力を抜いたキールのもう片方の手首にも手錠をかけ、柱に繋いだ。
「貴女達ってことはまだ他にも誰か疑われてる人がいるのね」
『まあね。来てからのお楽しみ……もしくは、誰がそうか知ってたりするのかしら』
「そんな事知るわけないでしょ」
かなり薄暗い倉庫の中。投光器をつけながらキールと話していた。
数分後、別の車のエンジン音が聞こえてきた。これは、たぶんバーボンの車だ。そして、倉庫の中へ入ってきたバーボンは静かに、でも怒りの滲んだ声をあげた。
「組織の命令だと聞いたので来たんですけど……一体どういうつもりですか?」
『何も聞いてないの?まあ、後で説明してあげるから』
「従うとでも?」
『……それなら今死ぬ?』
ホルスターの拳銃を抜いてバーボンに向けた。私とバーボンの間に重い空気が流れる。
「……さっさとしないとジンが来るわよ」
倉庫の入口から聞こえてきたベルモットの声に拳銃を一度下ろした。
「バーボンも今は従いなさい」
「……仕方ありませんね」
ベルモットがバーボンの手首に手錠をかけ、キールと同じように柱に繋がれた。キールとバーボンが話す声が微かに聞こえる。NOCの疑いがかけられたということを伝えているようだ。
「NOCリストを奪ったのは貴女ではないんですか?その任務を与えられたのは貴女だと聞いていましたが」
『確かにその予定だったけど急に変わったのよ』
その時、聞こえてきたエンジン音に緊張が走る。ジンが来たようだ。