第9章 すれ違い
ウォッカside―
あの日、マティーニが撃たれた時の兄貴のあの表情。殺意と怒り……そして恐怖だろうか。
瞬く間に全員撃ち抜き、気を失ったマティーニを自身のコートで包んで抱き上げた。
「ウォッカ、てめぇはこいつの車で戻れ」
「しかし、兄貴……」
鋭い目で睨まれ言葉を飲み込む。
「こいつは俺が連れてく……後始末は任せた」
そのまま車の助手席にマティーニを乗せ、もの凄いスピードで走り去っていった。
金とライフルの入ったケースをマティーニの車の助手席へ乗せる。
「後始末だ。何も残すな」
末端のヤツに指示をして運転席へ乗り込んだ。左ハンドルで助かる。
後部座席に脱ぎ捨てられた服から目を逸らし、エンジンをかけた。
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言うべきではなかったか……後悔すでに遅し。
話を聞くなりイラつき出したマティーニ。準備するから!と無理矢理部屋から追い出される。
兄貴には何度も釘を刺された。絶対にマティーニには部屋を教えるな、と。
いくらマティーニ自身がが責任を取ると言っても、自分が話してしまったことに変わりはない……もしかしたら俺、非常に危険では……?
にしても、揃いも揃ってあの態度……まるで……。
「ふふっ……あの2人、すごく焦れったいでしょ?」
声が聞こえ振り返ると、いつの間にかベルモットが後ろに立っていた。
「……そうですね」
いくら色恋事に興味がない自分でもわかる。あの2人が好きあっていることくらい。
「まあ、当の本人達はお互いに気づいてないみたいだけど」
普段から感の鋭い2人が、どうしてここまで自身のことになると鈍いのか……周りのヤツらだって気づいているだろうに。
「……それで?ジンの所に連れてくの?」
「ええ……兄貴には教えるなと、何度も釘を刺されたんですが……」
「マティーニに気圧された感じね……ジン怒るかしら?」
「そりゃ……」
「それじゃ、私が口添えしてあげるわ。それなら何も言えないでしょ」
そう言って笑うベルモットはとても楽しそうだ。
「マティーニの外出は止めないんですかい?」
「あの子、ああなったら梃子でも動かないもの……傷もだいぶ良くなったみたいだし大丈夫だと思うわ」
一緒に乗せてってと歩き出したベルモットの後を追った。