第86章 純黒の悪夢
夜が開けて、ベルモットが言う場所まで車を走らせる。が、昨日の事故のせいか道は封鎖されているところが多く、途中で進めなくなってしまった。
『車で行けるのはここまでね』
「とりあえずここでいいわ。少し待ってて」
ベルモットがおりていくのを見送ってため息をついた。キュラソーからの連絡はない。怪我をしていて動けないのか、スマホを落としたり、壊れてしまって連絡できないのか……どちらにせよ、時間が経つにつれて気がどんどん沈んでいく。
警察庁に侵入していたのが私だったら……でも、キュラソーの特殊な脳があるからメールが送れたのだろうし、私だったら何の情報も持ち帰れなかったかもしれない。しばらくして戻ってきたベルモットの手には薄汚れたジャケットがあった。
『それって……』
「おそらくキュラソーが来ていた物。ガラス片がくっついていたから怪我してるかもしれないわね。一応ポケットを探してみたけど何も残ってなかったわ」
『……』
「とりあえず東都水族館へ向かって」
『……水族館?どうして?』
「このジャケットが落ちてた場所から見えたのよ。そこに向かった可能性もゼロじゃないわ」
『……わかった』
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ベルモットは東都水族館の施設内へ。私は入場ゲートを出入りする人間を確認していた。こっちにはいないかな……なんて思っていた時、ベルモットからキュラソーを見つけたと連絡が入って安堵のため息をこぼした。でも、それは戻ってきたベルモットによってすぐに打ち砕かれた。
『記憶喪失?』
「ええ」
『それで?大丈夫なの?』
「警察病院に運ばれたわ」
『警察病院って……ジンはなんて?』
「とりあえず監視を続けろって。向かってくれる?」
そう言われて警察病院へ車を走らせた。しかし、途中で私に電話がかかってきた。耳の通信機のボタンを押すと聞こえてきたのはジンの声だった。
『……どうしたの?』
「キュラソーの話は聞いたか」
『うん。記憶喪失だって』
「東都水族館の観覧車の車軸に爆弾を仕掛けろ。配線は任せる」
『爆弾って……』
「それだけだ」
そう言い残して切れてしまった電話にため息をつく。そしてチラリとベルモットに視線を向けた。
『ごめん、別件が入った。警察病院でおろして大丈夫?」
「仕方ないしいいわ。にしても爆弾なんて何考えてるのかしらね」