第86章 純黒の悪夢
「……ええ。ラムが気にしてる人が何人かいるみたい」
『へぇ……もしかして、コードネームがある人だったりする?』
「今は言えないけど、戻ってきたら教えてあげるわ」
夜も遅い時間で、車も人も少ない。キュラソーが戻ってから逃げるまで、そう時間はかからないだろう。
『立て続けの任務で大変でしょ?ちゃんと息抜きとかできてる?』
「あまりそういうことはしないわ」
『じゃあ、この件が一段落したら一緒に出かけない?食事でもショッピングでも』
「……」
『もちろん無理にとは言わないけど……貴女が嫌じゃなかったらどうかなって』
「そうね。たまにはそういうのもいいかしら」
『よかった。約束ね!楽しみにしてる』
警察庁から少し離れた路地に車を止めた。キュラソーがシートベルトを外す。
『どのくらいで戻る?長く止まってると目立つから周囲を走ってるけど』
「20分かからないと思うわ。建物から出たら1コールだけ電話をかける。もし、30分経っても私からの連絡がなかったらベルモットに伝えて」
『了解。気をつけてね』
暗闇の中、キュラソーの姿が見えなくなるまで見送り……私も車を出した。
『……』
25分経った。まだキュラソーから連絡がない。嫌な予感が胸をぐるぐると渦巻いている。誰かに見つかったのか?でも、キュラソーなら倒して来れるはず。大人しく待つしかないのが歯痒くてたまらない。
一度、キュラソーを下ろした場所へ戻る。少し期待をしたがそこにも姿はない。そして、30分経ってしまった。言われた通りベルモットに電話をかける。
「Hi」
『キュラソーの居場所わかる?』
「まだ戻らないの?」
『うん……』
「少し待って……スマホのGPSは機能してないわね」
建物からは出れたのだろう。しかし、その後の行方がわからなくなってしまった。
『どうしよう……』
私が行ってたらこうはならなかったかも……そんな考えに押し潰されそうになる。
「とりあえず貴女は戻ってらっしゃい」
『うん……』
電話を切り車を出した。大通りに向かうと消防車と救急車がサイレンを鳴らしながら走っていった。何かあったのかとラジオをつける。どうやら首都高で大規模な事故があったらしい。明日になればもう少し詳細なニュースが出るだろう。
『約束したじゃん……』
だから無事に戻ってきて……。