第85章 重なる影※
ライ……赤井の姿が一瞬、目の前の男に重なった。以前、取引で薬を打たれた時助けてもらったことを思い出す。
どことなく、似ている気はするのだ。もちろん、容姿は違うし声も違う。左利きであることと、吸っているタバコの銘柄……そして、先程覗いた瞳の色。たまたまそれが同じだけだ。赤井は死んだのだから。
私の右耳に指が伸ばされる。髪が耳にかけられて、口が寄せられる。熱い吐息を感じて、舌先が耳の縁をなぞった。
『っ……』
背筋がゾクッとして顔を背けそうになる。でも、左の頬に添えられた沖矢の手にそれをやんわりと阻まれた。声を聞かれるのが嫌で唇を噛んで堪える。
「声、聞かせてくださいね」
唇が降りてきて首筋に触れる。所々にキスが落とされて、舐め上げられて。思わず喉が反る。それでも唇は噛んだままだ。
「……傷ついてしまいますよ」
沖矢の指が唇をなぞる。その顔を睨んで今度こそ顔を背けた。
「まあ、いいでしょう。我慢できないようにすれば」
『んっ……』
服の上から胸を触られた。強弱をつけながらやわやわと揉まれるが、まだ我慢できる。時々、胸の先端を指が掠めていくとどうしても反応してしまうが。それを見てか、沖矢がフッと笑いをこぼした。
「可愛らしい反応をされますね」
『……』
「直接触っても?」
既に服の中に手を入れ始めているくせに何を……ボタンを外し始めた沖矢の手にハッとして上体を起こし、その手を掴んだ。
「……嫌でしたか?」
『……触ってもいいけど、服は脱がさないでください』
「汚れてしまうかもしれませんよ」
『……傷があるんです。見ても気分のいいものではないと思います』
時間が経つにつれて薄くはなったが、それでも一般人にはあるはずのない銃創がある。見る人が見れば銃創だとわかってしまうし、下手に問い詰められても面倒だ。
「私は気にしませんよ」
『……私が嫌なんです』
「どうしてもですか?」
『……じゃあ、沖矢さんも脱いでくれますよね?』
「……いいでしょう。では、1つ約束をしましょうか」
『約束?』
「ええ。お互いの体にどんな傷や気になるものがあったとしても、それについて何も聞かないと」
この男も身体に何かしらの傷があるんだろうか……それならば、と小さく頷いた。
「自分で脱げますか?」
その問いにも小さく頷いてボタンを外し始めた。