第84章 もうひとつのレシピ
『アイリッシュが?』
「ええ。どこかの組織を潰した時に着いてきたらしいわ。使えそうだからってボスも許可を出したのよ」
『……それで?』
「しばらくはずっとアイリッシュの任務に付き添ってたんだけど、ジンの任務の時、どうしても手が足りなくてフィノを連れて行ったの。そこで何があったかは知らないけど、ずいぶん仲良くなって帰ってきて……そこからはよくジンが連れ回してたわ。ジンとアイリッシュの仲が悪くなり始めたのはそこからね。アイリッシュはフィノのこと娘みたいに思ってたみたいだし」
いつだったか、アイリッシュに対して父親みたいだと言ったことを思い出した。あの時、アイリッシュは笑っていたけど……今となっては本心がどうだったのか確認しようもないか。
『ジンはその人のこと……』
「本気で大事にしてたんじゃない?きっとそういう関係でもあったでしょうね」
『そっ、か……』
「覚えるのは少し遅い子だったけど、それでも教えればそれなりにできる子だったし……そのうちコードネームが与えられる予定だったのよ」
『予定……?』
「貴女が入ってきてすぐ死ななければね」
『っ……』
やはり、もう死んでいるのか……酷い人間だとは思うが、そういう関係であったことを知ったからか少し安心してしまった。
『……どうして死んだの?』
「撃たれたのよ……ジンを庇って」
『え……』
「いろいろできたとはいえ、そういう場に慣れていなかったし、貴女みたいに咄嗟に身を捩って急所を外すなんてことできなかったのよ。だから、その場で死んだらしいわ」
指先が冷たくなっていく。
「貴女が撃たれた時、ジンがあれだけ距離を置こうとした理由には、少なからずその時のことがあるでしょうね」
ベルモットは空になったグラスにまたワインを注ぐ。
「貴女、その時はまだジンと関わることなんてほとんどなかったから知らないかもしれないけど、凄かったのよ。命令になくても組織潰してきちゃうし手が付けられないほどで……見てられなかったから、私からそういう関係に持ち込んだの。まあ、数年で貴女に取られたわけなんだけど」
『……じゃあ、私のこの顔はどうして』
「ジンにちょっとした仕返しよ。でも、最初はほとんど反応しなかったし、もうとっくにフィノのことは忘れられたんだと思ってたわ」
『……最近よ。これを嫌がりだしたのは』