第83章 憧れの人
「え?気になりますか?」
「ええ。ただやっているだけでは都大会で優勝なんてできませんから。その強さの秘密に興味があって。聞いてもいいですか?」
「えっと、空手の日本チャンピオンの前田さんに憧れたのもあるんですけど……」
そこまで言って蘭ちゃんはなんともいえない表情を浮かべた。そして、隣に座る園子ちゃんの方へ顔を向ける。
「ねえ、園子……あの時のこと話してもいい?」
「え?……ああ、あの時の?いいよ、話して」
園子ちゃんも同じような表情を浮かべた。
「……ありがと」
蘭ちゃんは注文した飲み物ではなくお冷を1口飲み、ゆっくり息を吐いた。
「ちょっと暗い話かもしれないんですけど……何年か前、園子の家のパーティに招待されて……そこで私と園子、誘拐されかけたんです」
「え……?」
予想もしてなかった話が始まって、そばで話を聞いていた梓さんの国から声が漏れた。
「あ、そんな顔しないでください!」
「でも、思い出したくないでしょう?すみません、不躾に……」
バーボンは蘭ちゃんに謝る。私はその様子を見ていることしかできなかった。
「いいんです!あ、でも……安室さんなら人を探すことできますか?」
「人……ですか?」
「その時助けてくれた女の人を探して欲しいんです。って言っても、名前もどこの会社の人かもわからなくて……ギリギリ監視カメラに映っていた姿しかないんですけど……」
バーボンの視線が一瞬向けられた。貴女でしょう、と言わんばかりの目に膝の上に置いた手を強く握り締める。
「すみません、それだけでは難しいかもしれないです。でも、そう言うならとてもすごい方だったんですね」
「ホントにすごかったのよ!たった1人でそこにいた男全員倒しちゃって!」
「……だから、その人みたいに誰かを助けられるようになりたくて。だから、ここまで頑張ってきたのかもしれないです」
「……しかし、名前も所属もわからないとなると怪しいですね。裏社会の人間かもしれないですよ」
確かにそうだよな……助けてくれた人間が裏社会に生きる人だと聞いて、それでも良いと思えるだろうか……。
「それでもいいんです。一度会って、ちゃんとお礼を言いたいんです。貴女が助けてくれたから、今こうして生きてられてますって……本当にありがとうございましたって言いたいんです」