第9章 すれ違い
翌日からお見舞い客が次々と訪れた。と言っても、来てくれたのは、ベルモット、キュラソー、キャンテイとコルンとカルバドス、あとウォッカ。
アイリッシュからはメールが来た。忙しいのに連絡くれるあたり、やっぱり優しい。
テキーラからは予想通り何もない。よっぽど嫌われてるんだろう。
志保と明美からは電話が来たけど、こっちが心配になるくらいの声色で、何回大丈夫って言ったかわからない。
ジンは来なかった。怒ってるのかな……。
この間取引した相手は始末したらしい。詳しいことはまだちゃんと聞いてないけど、あんなことがあったんだから仕方ない。
にしても暇だ……。絶対安静って言われたからどこも行けないし……。
コンコン
「俺です。いいですか?」
『ウォッカ?どうぞ』
ちょっと期待したけど、入ってきたのはウォッカ1人。
『どうしたの?』
「あの後のこと、伝えておこうかと思って」
『ああ、わざわざありがとう。飲み物入れるね』
「いやいや、マティーニはそのままで。やらせていただいても?」
きっと何言っても断られるな。そう思って頷いた。
用意してもらった紅茶に口をつける。同じティーパックなのに何が違うんだろってくらい美味しい。
「それで、あの後なんですが……」
ウォッカが話し始めた。
私が意識を失った後、そこにいたヤツらを始末したのはジン。1人残して訳を聞いたら別の組織に金で雇われたと。そのままそいつも始末して、アジトへ戻ったらしい。私の車はウォッカが運転して来てくれて、私はジンの車に乗せられたと。
『……そうなんだ。よかった、車どうしようかと思ってたから』
「勝手にすみません」
『大丈夫だよ。ウォッカの運転なら間違いないし』
「そう言っていただけると助かりやす」
『……ジンは怒ってる?』
今1番気になること。ここまで会いに来られないのはさすがに堪える。
「まさか。逆じゃないんですか?」
『逆?』
しまったという顔を浮かべるウォッカ。逆って私が怒ってるってこと?なんで?
『ねえ、どういうこと?』
「あ、いや、その……」
『答えて』
「……兄貴には言わないで欲しいんですが」
『わかった。言わない』
「兄貴は……マティーニをあの取引に連れて行ったことをすごく後悔してるようで……それで会いに来ないんだと……」
何それ……。