第9章 すれ違い
体を揺らす振動にうっすら意識が戻る。このタバコのにおい……ジンの車……?視界はぼやけていて頭がクラクラする。
『……ジン?』
「……もう少しで着く。目え閉じてろ」
顔を向ける気力もないけど、すぐ側から声がして安心する。
『怪我……しなかった?』
「ああ……」
『……そう……よかった』
本当によかった。今日呼ばれていなかったら、撃たれていたのはジンだったかもしれない。
そう思うとまた意識が遠のいていく……。
再び目を開けると、そこは見覚えのない場所。ピッピッと機械音が聞こえる。それと微かな消毒のにおい。病室……アジトの中か?
「目、覚めた?」
『……キュラソー?』
「ええ。無事でよかったわ」
体を起こそうとするが、キュラソーに止められる。
「起きちゃ駄目。痛み止めが効いてるから痛みがわからないだけよ。しばらく安静にしないと」
そう言われてしまえば仕方ない。大人しくしていよう。腕に刺された点滴の針を見て思う。
『どうしてここに?』
「ベルモットが任務に出ているから、その間様子を見てるように頼まれたの」
『……そうなんだ。あの、ジンとウォッカは……?』
怪我していないだろうか。
「2人とも……なんともないわ」
その時、ドアの開く音がした。
「キュラソーありがと、終わったから……」
ベルモットの声だ。
「ちょうどよかった。ついさっき目を覚ましたわ」
「はあ……本当によかった」
ベルモットの手が頬に添えられる。
「もう、本当に心配だったんだから……無茶しすぎよ」
『大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて』
「……それじゃ、起きたって伝えてくるわ」
そう言ってキュラソーが出ていった。
ベルモットが私に向き直る。
「……1週間も目を覚まさないから」
『1週間!?』
「そうよ。それだけ傷も深かったし、出血量も多かったから……」
『任務は……』
「そんなこと言ってる場合じゃないわ。貴女の分は他で手分けしてやってるから……今は自分の心配しなさい」
『うん……ありがとう』
その後、医者が入ってきていろいろ様子を見られた。順調に行けば、数日で自分の部屋に戻れるらしい。それでも、包帯が取れるまでは安静。
医者とベルモットが出ていった部屋に、機械音だけが響く。
『……ジン、会いたいよ』
貴方は今何してるの……。