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【名探偵コナン】黒の天使

第82章 子供の頃のアダ名


「それなら、二度とその名前で呼ばないでくださいね」

口調は柔らかいが、その中に有無を言わせないような威圧感があった。いい思い出だから壊されたくないのか、悪い思い出だから欠片も思い出したくないのか……どちらなのかはわからないけど、この感じならば触れない方が良さそうだ。


アジトの駐車場に車が止まり、バーボンの方へ視線を向ける。

『私が出る必要はもうないのかしら?』

「ええ。報告を待っていてください」

「そう。送ってくれたのは助かったわ。それじゃあ」

またいつもみたいに腕を引かれるかと思ったけど、今日はそんな事もなく荷物を持ってさっさと車をおりられた。建物内へ続く扉を開けているうちに車が走り去る音がした。

残るピースは1つ。バーボンがそう言うならきっと真相を知れる日は近い。その報告は待つとして……私がどうにかしないといけないのはあの少年だ。

ベルツリー急行の1件で、少なからず疑わしい人間だと思われてるはずだ。今日会ってしまったことで更に疑われるようになったかもしれない。きっと、私がマティーニという名前を持つことを知られるのは時間の問題だろう。姿は違うが、名乗っている黒羽亜夜という名前は同じだ。聞く人が聞けば、これが変装であるというのもバレる。まあ、それ以前に志保が話してしまえばそれまでなのだけど。


自室に戻るまでに、途中で顔を合わせたキャンティやコルンと立ち話をした。そのせいもあって、ここに着いた時間から30分以上経っている。駐車場にジンの車はあった。ここに来るまでに鉢合わせてはいないから部屋にいるかもしれない。そう思って音を立てないように静かにドアを開ける。

ジンはベッドで寝ているようだ。小さな灯りのつく部屋の中。ソファへ投げられているコートや帽子、灰皿に山積みになっているタバコの吸殻を見て、ため息を着きたくなったのをどうにか堪えた。

本当に……綺麗な顔をしている。ぼんやりと見えるその姿は絵画のモデルにもなれるんじゃないかと思うほどだ。触れたい、と無意識に伸びた手をギリギリのところで止める。起こしては悪いし……と手を引っ込めようとしたが、それより早くジンの目が開きその手を掴まれた。目を逸らせずにいると、ジンの唇が音を発さずに動いた。

『ごめん、起こしちゃったね……』

そう言うとジンの目が見開かれ、手を振り払われた。
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