第82章 子供の頃のアダ名
コナン君の声に時計を見た高木刑事が顔色を変えた。
「ヤバ!こんな所で油売ってる場合じゃなかった」
慌てる彼にバーボンがそっと近づく。
「……じゃあ、楠田陸道って男の事とか知りませんよね?」
「楠田陸道?ああ!そういえばその爆弾騒ぎの何日か前にこの近くで破損車両が見つかって、その車の持ち主が楠田陸道って男でしたよ!」
その言葉にバーボンの顔色が変わった。私自身の表情が硬くなった気がする。
「この病院の患者だったそうですけど、急に姿をくらましたらしくて……謎の多い事件でね、その破損車両の車内に大量の血が飛び散っていて、1mmに満たない血痕もあって……」
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アジトへ向かうバーボンの車の中。ほんの少しではあるが、バーボンの口角は上げられている。
『よかったわね、無駄足にならなくて。あの刑事の口もずいぶん軽いみたいだったし』
「……ええ。これでまた先に進めます」
『……にしても、破損車両と飛沫血痕ね。拳銃を使ったのは間違いないんだろうけど』
「本人の行方もわかっていませんし……もう既に死んでいる可能性も出てきましたね」
『FBIに殺られたってこと?』
「……まだ、そこに関しては確証がありません。でも、もう残るピースは1つだけですから」
『へぇ……まあ、終わってからでいいけど全て話してくれるわよね?』
「もちろん」
『約束、守ってよね……ゼロ?』
病院で言っていた子供の頃のアダ名で呼んでみると、その肩がピクリと揺れた。そんなにあからさまな反応しなくても……と視線を正面に向けると、進む先の信号は赤。それなのに車のスピードは落ちない。
『っ……ちょっと前!』
「っ、あ……すみません」
急ブレーキのせいで体が大きく揺れた。ギリギリのところで止まったから良かったが……。
『病院でもそうだったけど、このアダ名に何かあるの?』
「……」
『途中ボーッとしてて反応なかったし……子供の頃の思い出はあまり良くないとか?』
「……僕の過去を詮索するなら、貴女のことも教えてもらえますか?」
私の過去……もう最近は敢えて思い出そうとしなければ考えもしなくなってきたけど……全てが無駄だったとは思わないけど、良いものでもない。
『教えないわよ……貴方の過去なんてそこまで知りたいことでもないから』
「そうですか。それは残念」